2024年11月24日(日)

したたか者の流儀

2016年8月2日

リヴィエラ海岸

ニースの海岸(iStock)

 日本では歌にもなっているが、「リヴィエラ海岸」という言葉はあまり聞かない。イタリア側もリヴィエラというからだろう。日本ではパリのエアポートをシャルル・ド・ゴール空港と言うが、フランス人から聞いたことはない。必ずロワシーというのだ。同様に、リヴィエラとは言わずコート・ダジュールと呼ぶ。フランスでも北の人たちは、紺碧色の海岸を意味するコート・ダジュールを発音するときに一呼吸おく。それ程に、口からよだれの出る場所だ。

 最近コート・ダジュールの大都市ニースで大きなテロがあった。大型トラックが群衆をなぎ倒したとのこと。事件の大きさや経緯は数々の説明がなされているが、日本ではピントこない。そして、この事件も記憶の谷間に落ちてしまい、いつの間にか脳裏からも消え去ってゆくことであろう。

 南フランスこそが地上の楽園という事を知らなければ、今回の事件もよく理解できないであろう。そこで一言。

 日本人でフランスを経験している旅行者も少なくない。しかし、ニースまで足を伸ばす人はどれほどいるだろうか。北野武が紋付き袴で階段から降りてくるシーンで有名なカンヌ映画祭のある街からグレース王妃のいたモナコ公国のあるモナコ、モンテカルロ、五木寛之の小説『変奏曲』の舞台となったマントンあたりはイメージがあるかも知れない。マルセイユもなんとなく聞いている。きわめて大雑把に言えばマルセイユからイタリア国国境までのおよそ200キロが地上の楽園だろう。

 残念ながら、除くマルセイユだ。幸せの出発点は、画家セザンヌの故郷AIX-EN-PROVENCE(エクサンプロバンス)となる。その昔は、マルセイユは、神戸、横浜のような美しい港町であった。今は違う。美しいものすべてが数十キロ離れたAIX(エクス)に移ってしまった。フランスには、ほかにもAIXという街がおおい。古語で水という意味のようだ。エクサンプロバンスは井戸の街で、画家ばかりではなくおいしい地下水の街でもあるのだ。

 そこから南に行くと、米人はカクテルに使うカシスの語源だと信じているCAISSIS(カシ)がある。地味ながら美しい漁港だ。タイヤのミシュラン一族のお城もある。少し東に行くと、フランスの呉ともいえる海軍の基地TOULON(トゥーロン)がある。

 さらに進めば、最高級リゾート地ST-TROPEZ(サントロペ)だ。沖合の島も含めて、金持ちが自分の舟で行くところなのだ。鉄道がないので迷い込むジャポニカもいない。ここまでくると、セレブたちの特別地区となる。立ち入り禁止ではないが、ビブロスホテルに普通の感覚では入り込めない。最近は知らないが、その雰囲気に圧倒されてしまい身の置き場がない。穴があったら入りたくなる。西麻布がおしゃれなように、不便でひなびた漁村が、隠れた一等地になってしまったのだ。スイスのサンモリッツ、イタリアのポルト・フィーノも同様であろう。


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