2024年11月24日(日)

したたか者の流儀

2016年8月2日

 ところで、北アフリカからのフランスに戻った人をピエ・ノワール(黒い足)という。差別用語かもしれないが自分たちもそう呼ぶ。引き上げ者だ。白人なのに現地に入り込んだので足だけ黒くなったと言う意味だろう。アルジェリアで財産を作り、独立で失ったフランス人たちは引き揚げ者としてコート・ダジュールに住んでいる場合も多い。何に対しても雄弁なフランス人であるが、アルジェリアを含むマグレブ問題に関してはあまり発言しない。

 アルジェリア独立戦争の鎮圧に駆り出された精鋭のパラシュート部隊やアルペン部隊の生き残りによれば、言葉も通じることが多いアルジェリア人との戦いでは、テロと拷問、報復が日常であったようだ。部隊の仲間が死んだりするとむやみに村人を殺したとも聞いた。兵士が語る武勇伝かもしれないが。そんなアルジェリアはフランスと特別な関係だ。少し、意味合いは違うが両隣のチュニジア、モロッコでもフランス語が普通に通じる。これらの国をマグレブと呼ぶが、対岸の豊かな生活を見るとカスバに住む貧民やフランスからの独立戦争で負傷した老人たちは何を感じているのだろうか。彼らはイスラム教徒だ。

英国人の散歩道

 ニースでのトラックテロのあった場所は、日本語に訳せば英国人の散歩道となる。英国は世界で最初の産業革命の結果、惨めな労働者階級と豊かな資本階級に別れた。一部の豊かな英国人がスイスや南仏に長旅に出ることをグランド・ツーリズムと称した。現地の漁民や木こりは、なぜこんなところに英国人がやって来るのか理解できなかった。しかし、直ちに観光が産業になることを悟り前のめりになった。にわか名物のカステラこそは売り出さなかったが、観光ビジネスは隆々として育った。その裏側にはオリバー・ツイストなどのディケンズの小説の世界があり、15時間も坑内で働く未成年もたくさんいたことであろう。

 現代社会でも、一見幸せそうに見える先進諸国でさえ、自らの両親より豊かな生活ができる人は激減するそうだ。

 南フランスのけだるい天国感は、貧困と富裕、退廃と節度が渦巻いているのだ。今回の犯人はチュニジアの青年と聞いた。イスラム云々のまえに、想像を絶する富裕とその真逆の貧困が対立し始めたと感じる。はからずも、その日は市民が200年とすこし前に雄叫びを上げた7月14日だった。高級別荘300億円の値段を見たことがある。

  
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