上記論説は、全くの正論です。トランプ候補の政策は、中国に間違ったシグナルを送り、台湾の核化インセンティブを強めるという2つのことにより、海峡情勢をこの上なく危険にするとオハンロンは主張します。台湾の現状を動かすことは、中国に行動のキッカケを与えることになりかねません。注意深く現状を維持、強化していくことが肝要です。
トランプの対外政策、同盟政策は非常に問題が多いです。しかし、トランプが共和党候補になったという現実は直視する必要があります。当面出来ることは、種々頭の体操をしながら、大統領選挙の行方をフォローするしかないように思われます。トランプの外交政策の問題は、国際秩序の維持に係る米国の国際的役割を全く理解せず、他の多くの国と同じような自国第一主義を取っていることです。
中国にとって好都合なトランプ
中国は、トランプを好んでいると言われます。米国のアジアからの撤退は、中国にとっては戦略的に好都合です。場合によっては、米中間の「新たな大国関係」が築けるかもしれません。G2でアジアと世界を仕切れるかもしれません。南シナ海のような問題についても矛先が弱まると思っているかもしれません。
過去、台湾による核開発疑惑が問題となったことがあります。その都度、米国は一貫して台湾の核化に反対の立場を取ってきました。台湾は、1971年の国連中国代表権問題の決着により、中国が国連に入った後、NPT条約の締約国ではなくなりました。しかし、台湾は、IAEAとの特別査察協定と米台原子力協定により、IAEAの査察を受けています。このような枠組みの中で台湾が核化することは実際不可能に近いことです。更に、核の問題で米国の後ろ盾を失うことは台湾にとり存亡の危機に直面することを意味するので、簡単にはそれに乗り出せないでしょう。しかし、トランプが大統領になれば、台湾で核化の声が大きく成りうることは、オハンロンが指摘する通りです。それは、海峡情勢の危険を高めます。
米国のある国際政治学者は、核は保有する国が多ければ多いほど、国際均衡は安定すると論じましたが、それは恐怖の均衡による安定です。台湾の核化が起きれば、それは単に核不拡散の問題にとどまらず、台湾海峡の危険増大という極めて深刻な地域問題となります。
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