クーデター未遂後のエルドアンの行動について、上記社説は、トルコをさらなる混乱に導き、周辺諸国や西側に重大な危険を及ぼすだろうと述べています。トルコはNATOの一員ですし、欧州の東南の地政学的にも重要な位置にあり、クーデター後のエルドアンの行動の国際的影響は大きいと言えます。
まず、トルコと米国やEUとの関係が悪化しています。
米国とは、エルドアン支持派の中に今回のクーデターは米国が唆したのではないかと述べるものがあり、また、エルドアンがクーデターの黒幕と名指しているギュレンの送還に応じない米国に対し、感情が悪化しています。一方、米国は、クーデター未遂後のエルドアンの大規模な弾圧を非難しています。
EUも弾圧を非難し、難民対策でトルコに約束したEU加盟交渉の再開やトルコ人の欧州へのビザなし渡航の前倒しを見直すことを示唆しています。また、トルコに死刑が復活すればEU加盟交渉の再開はありえないと断言しています。
このようにエルドアンに対する米国やEUの不信感は強く、NATOの結束が揺らぎ、難民問題でのトルコとEUとの協力は当面凍結されるでしょう。またISとの戦いでの協力も当面頓挫しそうです。
負の影響を蒙るのはトルコ
しかし、これをもって西側に重大な危険が及ぶというのは言い過ぎで、負の影響を蒙るのはむしろトルコです。米国やEUとの関係の他、外国からの観光客、投資、借款の減少で、トルコ経済の活性化が頓挫する恐れがあるからです。エルドアンの行動に関して西側が何をすべきかについては、エコノミスト誌は、圧力を加えることを示唆していますが、具体的にどのような圧力を加えるべきかについては触れていません。
なお、エコノミスト誌は、今回の事件は西側世界の民主主義体制の不可逆性に疑問符をつけ、ロシアのクリミア併合・ウクライナ侵略、英国のEU離脱に続いて、1989年以降の欧州体制への第3の衝撃となるかもしれないと述べていますが、これも言い過ぎでしょう。確かにトルコは民主主義体制の確立で大きな成果を上げました。しかし1960年以降4回もクーデターがあったように、その基盤は脆弱であり、西側諸国と同列に論じるには無理があります。
今回のクーデター事件では、トルコの市民がクーデター反対に立ち上がりました。その限りでは、民主主義の勝利です。今エルドアンはその市民の権利を奪おうとしています。これに対し、市民が今後どのように反応するかが、トルコの民主主義の一つの試金石となるのでしょう。
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