2024年7月20日(土)

したたか者の流儀

2016年10月29日

 フランスの青年たちもネットでニュースを取っている。ただし、この傾向に危惧を感じる。特に、紙媒体だとその隣にある無関係な記事が時として人生すら決めることがある。これをセレンディピティーという。意図せず目に飛び込んでくる情報が宝を生むことがあるのだ。

 フランスはマスコミの強い国だ。残念ながら哲学者も作家もシャンソンも画家もかつての勢いがない。それに代わって、事件がいくつか起きている。独自の視点で世界に伝えるフランス・メディアの急先鋒、新聞界の現状を考えると心配になる。

 権威はあるが発行部数が少なかったルモンドは経営が揺らいでいた。敏腕記者が有料ネット新聞を立ち上げて成功しているようだ。おおむねネット系が隆盛だが、紙媒体でも隆々としているものも出ている。例えばパリの地方紙であるパリジャンは人気で必読。日刊娯楽紙とスポーツ紙に月刊誌情報誌を足したようなものだ。加えてパリの交通ネズミ捕りやタクシー道・裏道情報まで満載だ。

政治家が恐れる週刊新聞

 ところでシャルリー・エブドー事件を覚えているだろう。一時、世界中が「私はシャルリー」で埋め尽くされた。エブドーとは、フランス語のエブドマデール(週刊誌)の短縮形だ。フランスには影響力がある週刊誌が多い。シャルリー・エブドーと並ぶカナル・アンシェネという陰の一流週刊紙がある。鎖につながれたアヒルと言う意味だが、意訳すれば当局の規制を受けたボロ新聞ということになる。

 事実は全く逆で、書き放題なので政治家が最も恐れる創刊100年の週刊新聞だ。存命中はミッテランも走って買いに行ったという逸話もある。この新聞が報じたことで、辞任した大臣は数知れない。発売日の水曜にさらっと目を通して不穏な記事がないことを確認するのが政治家のルーティーンのようだ。力のあるものは、牽制をしないと何をするかわからない。緊張感のある世界を維持するためのメディアということ。すなわち紙でも電子でも必要なものは残る。

 フランスには知性時代の余熱がある。通俗だけが儲かれば、優秀な青年もそちらに流れ、知性の先端のメディアでも食うや食わずならば人は集まらない。紙の一部とネットの一部は心配ない。これが文化と民度だろう。翻って極東の国々はどうであろうか。

 小声で。フランスでは、新聞社は売り買いの対象でもある。
 

  
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