2024年12月23日(月)

風の谷幼稚園 3歳から心を育てる

2010年2月4日

そして最後、1点取ったほうが勝ちとなると、ものすごいボールの取り合いです。はがし、はがされながらボールをつかんだのは奎吾くん。しかし服の裾には相手チームが。それに一早く気付いたのは大空くんでした。「奎吾、行け! 行け!」と言いながら相手チームを奎吾くんからはがします。そして、大空くんのおかげで相手チームを振り切れた奎吾くんが、5点目を入れて勝ったのです。
鳥1組 学級通信 「おおばこ」より

子どもたちは「勝利ために協力していくこと」を、体ごと学んでいく。

 この文面からも、子どもたちの白熱ぶりが伝わってくる。(ラグビーに詳しい読者の方もいらっしゃると思うが、風の谷幼稚園でのラグビーは心の育成が目的であり、ルールも緩やかに運用しているので、ボールを奪いに行った相手をはがす行為はOKとしている)

  子どもたちにしてみれば、試合中はまさに「有事」の状態。必死になって冷静さを欠いてしまいそうな状態でありながらも、仲間を励まし、その言葉に奮起し、そして力を合わせて勝利に向けて努力する。こんな経験ができるのも全身がぶつかり合う団体スポーツ・ラグビーならではの良さだろう。

 子どもたちの口々から飛び出す「諦めない」の力強い言葉。そして、試合はいよいよクライマックスへ進んでゆく。再び学級通信を見てみよう。

喜ぶ仲間たちの元へ戻って、「協力するっていうのは、こういうことだよね」と言葉にし、その認識は共通のものに。そして、最終戦はグループを崩して先生が8人のメンバーを選びました。
「やりたい! やりたい!」と何人もの子が手をあげます。そこで、「先生は、最後まで諦めない子を選ぶ」と指名していきました。
葉の佳・武也・和希・和子・眞由・令華・天音織、そして奎吾。「諦めないからやりたい!」と言っただけあって目が違いました。
途中、鳥2組の萩原先生に「誰かに奎吾を止めさせて、動けなくなるくらい!」と耳打ちし、鳥2組の海来くんと賢河くんがおさえこみました。海来くんも今までにない頑張りだったそう。それだけに奎吾くんは泣き出します。しかし、「気持ちで負けない! 諦めないって自分で決めたんでしょ!」と声をかけると大きくうなずき、それ以降はどんなにおさえられても必死に振り払おうとする姿があったのでした。
結果、4対5で鳥1組の勝ち!
対決が終わった瞬間、「ぼく、諦めなかった。だからみんなで勝てた」と言う奎吾くん。見ていた人たちからも、一人ひとりの頑張りを認め合う言葉がありました。
もうすでに子どもたちはパスを出し合ったり声をかけ合ったりしているだけに、気持ちの面を意識させていきたいと思っています。
鳥1組 学級通信 「おおばこ」より

 このエピソードからわかるように「協力」の言葉の意味をしっかりと実感として身につけていく子どもたち。また、先生の役割にもご注目いただきたい。密着レポート第7回「失敗を諦めず、悔しさを感じる子を育てる」で紹介したように、風の谷幼稚園では「悔しい」という気持ちが成長の原動力と考えている。そこで、担任がわざわざ隣のクラスの先生へある子どもに悔しい思いをさせるため「おさえこみ」を頼むこともある。それは「その子が成長するためには、あえてそのような状況をつくりだし、それを乗り越える経験を積ませる必要がある」との判断からだ。


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