2024年11月22日(金)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2016年8月26日

 その中で、中国がもっとも警戒しているのはやはり日本であり、日本の安倍政権こそが、中国の心配と悩みの種なのである。

 少なくとも中国から見れば、前述の伊勢志摩サミットを中国批判の方向へと誘導したのはまさに日本の安倍晋三首相であり、例の南シナ海裁定を全面的に支持しているのも日本である。そして日本政府こそが今まで、あらゆる国際会議を利用して南シナ海問題を持ち出して中国批判を強めてきている、という考えであるから、G20会議を「成功」させるためには、安倍首相の「会議荒らし」をいかに事前に防ぐのかが、中国政府にとっての重大な外交課題となっている。

 しかし一方、議長国として安倍首相の会議参加を拒否することは当然できないし、一国の首脳の発言を会議の席で封じ込めることも出来ない。そうすると、中国政府にとっての選択肢はただ一つしかない。要するに、会議の開催の前に急いで日中関係の改善に乗り出して安倍首相を懐柔する以外にない、ということである。

 だからこそ、8月24日からの中国王外相の一連の慌ただしい対日外交の展開が見られたのであり、中国は一転して意外とも言えるほどの「対日友好姿勢」を示し始めたわけである。この一連の対日外交工作の仕上げはすなわち、G20会議に合わせての日中首脳会談の開催であるが、おそらく習政権からすれば、それほどの友好姿勢を示して安倍首相と日本政府に好意を寄せた以上、さすがに安倍首相はG20会議では中国の意を汲んで南シナ海問題に言及せず、もっぱら経済問題を語り中国主導の「国際的経済協力メカニズム」の創立に協力してくるのであろう。そうなれば、中国の目的は自ずと達成できることになるのである。

 以上が、王毅外相の日本訪問から始まった一連の「対日友好外交」の真意と、G20首脳会議にかけた中国側の思いと戦略的思惑であるが、問題は、G20会議が中国側の思惑通りに運ばれて中国の目的が達成した暁には、一時的な便宜としての「対日友好姿勢」は果たしてそのまま継続するかどうかである。

 日本政府と安倍首相はこの点も見据えた上で、今後の対中外交の方針と日本自身の「G20戦略」を定めていくべきであろう。

■修正履歴
2ページ小見出し下の段落内「カーター国務長官」は正しくは「カーター国防長官」でした。お詫びして訂正致します。該当箇所は修正済みです。(2016/09/02 12:27)

  
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