李次官はまず、会議の議題について「主題は経済成長であり、妨害はさせない」として、南シナ海問題を議題にしようとする動きを議長国として強く牽制した。
李次官はさらに、世界経済について「依然として比較的大きな下振れ圧力に直面し、国際貿易は低迷し、保護主義が台頭するなど、不安定で不確定な要素が増加している」と指摘した。こうした中で、参加国は会議や中国に大きな期待を抱いているとして「世界経済の行方を指し示すといったG20の指導力の発揮と、国際的な経済協力の強化、協力のための新たなメカニズムの創設」などを目標に掲げた。
海外メディアが「南シナ海問題について、中国の立場を説明するよい機会ではないのか」と質問すると、李氏は「国際会議では、一部の国が自ら関心のある問題を持ち出そうとするが、参加国の総意は経済問題に集中することだ」と釘を刺した。
李次官のこの一連の発言から、習近平政権の企む「G20戦略」は火を見るより明らかだ。要するに、中国の外交的劣勢の原因となる「南シナ海問題」に関する議論を会議から一切排除した上で、会議の関心点と方向性を、中国と周辺国との紛争の源である領土・領海問題とは無関係の「国際経済問題」へと持っていくことである。そうすることによって、中国は面倒なことが避けられ、参加国から批判の嵐に晒されずにすむであろう。そして、中国が「指導力」を発揮して「国際的な経済協力のメカニズムを創出する」という形を作り出すことによって、中国は「アジアの問題児」であるどころか、むしろ「世界のリーダー」として再び、国際社会での主導権を握ることになる。もちろんその結果、南シナ海問題から発したところの中国の外交的劣勢は完全に払拭されることになる、という目論見であろう。
安倍首相を懐柔する以外にない
以上が、G20首脳会議開催に向けての中国政府の外交戦略の概要であるが、その目的達成のために、中国政府はもう一つ、急いで講じなければならないのがまさに「日本対策」なのである。
G20会議を中国にとっての「成功」へと導くために、南シナ海問題が会議で提起されることを排除しなければならないのは前述の通りだが、この点に関して、中国にとって安心材料となるのは、今、南シナ海の領有権問題で中国ともっとも激しく争っているベトナムとフィリピンの両国が、G20会議の参加国ではないことである。その他のアジアからの参加国に関していえば、インドにしてもインドネシアにしても韓国にしても、「南シナ海紛争」とは一定の距離をおいているから、これらの国々の動向も中国にとってそれほどの心配はない。