このように、今年5月の伊勢志摩サミットから7月の国際裁判所の南シナ海裁定までの一連の流れにおいて、いわば南シナ海問題を巡って、習近平政権の進める覇権主義外交は国際社会の反発と抵抗に遭ってかなりの劣勢に立たされ、中国の孤立化が進んでいることは明らかだ。こうした中で、7月13日、これまでにアジアの中でも突出して中国と親密関係にあった韓国が、習政権の強い反発を跳ね返して米軍の「高高度防衛ミサイル(THAAD)」を韓国国内に配備することを決めた。中国はこれで、アジア最大の「親友」であるはずの朴政権に対しても厳しい姿勢で臨む羽目になり、孤立感がよりいっそう深まったはずだ。習政権からすると、今の中国周辺はまさに「敵ばかり」のような状態であろう。
「主題は経済成長であり、妨害はさせない」
このような外交的行き詰まりをどうやって打開するのかは、習近平政権にとって重大かつ緊急の課題となっているが、そこで習政権が目を付けたのは当然、久しぶりに中国で開かれる国際的重要会議のG20である。中国が議長国として采配を振るい、日米首脳を始め世界の先進国とアジア主要国の首脳が一堂に集まるこの会議は、習政権にとってはまさに劣勢挽回のための起死回生のチャンスとなる。これを最大限に利用しない手はないのである。
実際、習政権がこの会議にかける意気込みは並々ならぬものである。8月17日の産經新聞の記事によると、会議の開催地となる中国浙江省の杭州市では、早くも厳戒ムードが広がっているという。市内に向かう他省ナンバー車に厳格なチェックが義務づけられ、不審物を警戒し会議場付近や観光地でマンホールが封印された。大気汚染対策として周辺の工場に停止命令を出したりするなど、強権的な措置も相次いで発動されているのである。習政権は会議の「円満成功」に全力を挙げていることがよく分かる。
もちろん中国政府もよく分かっているように、この首脳会議を中国の望む形で「成功」させるためには、現地の保安体制の強化程度ではまったく不十分だ。G20を中国の外交的劣勢挽回のチャンスとして最大限に生かすためには、中国がいくつか、重要な外交戦略を講じなければならないのである。
その一つはすなわち、会議の議題を中国のアキレス腱となっている「南シナ海問題」から完全に切り離して、会議全体の基調を中国にとって有利な方向へと誘導していくことである。
8月15日、中国外務省の李保東次官は、9月のG20会議に関する記者会見を行ったが、彼がそこで語ったことに、中国の思惑のすべてが凝縮されていると感じられる。