戦後レジームを引きずる日本のサイバーセキュリティ
一方で、3月18日が何の日か知る日本人は、ほとんどいないだろう。答えは「サイバーの日」だ。この現状こそが、日本のサイバー対策の実態を表しているのかもしれない。
日本政府は韓国に遅れること10年目の2014年にサイバーセキュリ法を成立、内閣サイバーセキュリティセンター(NISC)を設立したが、日本のサイバーセキュリティはサイバー戦に対応するためではなく、犯罪としてのハッキングに対処するために生まれた経緯がある。
日本のサイバーセキュリティの萌芽は、1999年に政府が策定した「経済新生対策」で電子政府の基盤構築が決定したことに始まる。電子政府の構築には官民あげてのセキュリティ対策が必須であり、ハッカー対策が喫緊の課題であった。このため警察にサイバーポリスが設立(1999年)され、これが日本の事実上のサイバー攻撃対応部隊となった。政府内で「サイバーセキュリティ」という言葉が使われるのは2013年からであり、それまでは「情報セキュリティ」と表現されていたことからも、政府の方針がサイバー戦への対応でなかったことは理解できるだろう。
しかし、前述のとおりサイバー戦は国家の意思として遂行される。日本に向けて弾道ミサイルを連発する北朝鮮には6000人、尖閣諸島の領有権を窺う中国には10万人以上のサイバー戦部隊があるという。現在、サイバー空間は陸海空宇宙に次ぐ5つ目の作戦空間と認識されており、北朝鮮や中国はこの6つ目の戦場で、現実にサイバー戦を展開しているのだ。この国家による新たな形態の戦闘行為に、国内的な作用である司法で対処することが果たして有効であるのか。
米国司法省は2014年5月、サイバー攻撃によって米国企業から情報を盗みとったとして、中国のサイバー戦部隊「61398部隊」の将校5人を刑事訴追したが、当然ながら逮捕には至ってない。しかし一方で米国防総省は、米国のコンピューター網を防御するため、シリコンバレーに拠点を作り、2016年までにサイバー攻撃も担当する「サイバー任務部隊」を現行の3倍の6200人まで増強する政策を打ち出している。
これに対して、自衛隊のサイバー戦部隊である「サイバー防護隊」は70名規模で、任務は自衛隊の情報通信システムの防御のみという。現代の日本で自衛隊がサイバー戦の「鉾」を担うことは不適切なのかもしれないし、韓国や米国の体制が正解であるとも限らない。しかし、憲法で戦争を放棄したがために、軍事にも司法で対応せざるをえないという歪な法体系が無力であり、国民の安全を守ることができないことは、北朝鮮による日本人拉致や中国公船による尖閣諸島の領海侵犯からも明らかではないのか。
安倍政権の下で憲法改正が現実課題として浮上してきた現在、70年前に作られた憲法が想定していなかったサイバー戦へどう対応していくかという問題は、戦後レジーム下で思考を避けてきた国家情報機関の創設と自衛隊のあり方について、正面から議論を突きつけているともいえる。
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