「もう何を信じたらよいかわからんね」(長崎県壱岐島の漁師・中村稔さん)
4月にISC(北太平洋マグロ類国際科学委員会)が発表した太平洋クロマグロ(以下、クロマグロ)の資源評価を受けての発言だ。ISCの発表は業界に衝撃を与えた。最近年にあたる2014年の親魚資源量は1万6557トンと、初期資源量(漁がなかった時代の資源量)の2・6%しかなかった。一般的に初期資源量の10%を切ると「資源崩壊」と定義される。
(NAONORI KOHIRA)
過去の資源量もさかのぼって「下方修正」が行われたことにも衝撃が走った。12年の親魚資源量は、前回14年発表時の2万6324トンから1万3795トン(約48%減)へ、10年の親魚資源量も、前回2万5476トンから1万1505トン(約55%減)へと大幅に下方修正された。
「過去にさかのぼって資源量が大幅に下方修正される魚種はクロマグロ以外ほとんどない」と複数の水産学者が指摘する。クロマグロの資源量はこれまでも下方修正され続けてきた。
今回、親魚の「歴史的中間値(これまでの資源量の中間値)」も14年の4万2592トンから3万8000トンへ下方修正された。14年に発表された歴史的中間値は、太平洋の西側のマグロ類の管理を司るWCPFC(中西部太平洋マグロ類委員会)が14年に回復目標に設定した値(24年までに歴史的中間値=4万2592トンまで親魚資源量が回復する可能性が60%以上になるようにする)にもなっている。
今回の資源評価をもとに、今後、資源管理措置の見直しを検討していくことになるが、その際、回復目標値が4万2592トンから3万8000トンへ下方修正される可能性もある。資源評価を行うごとに回復目標値も下方修正されていくとすると、違和感を覚える人も多いだろう。
そもそもISCの資源評価は、クロマグロの漁獲枠を決める重要な根拠指標となっている。今回の下方修正は、その根拠自体が間違っていたことを示す。漁獲枠はすぐには変わらないため、クロマグロを減少させた最大の要因である「過剰漁獲」が続く可能性がある。