これまで「現行の未成魚を中心とした規制だけでなく、親魚を含めたもっと厳しい漁獲規制を」と訴えていた家族経営的な零細の漁師を中心とする沿岸漁業者に対して、水産庁は「現行の規制で十分」という立場を取っていた。結果として高い漁獲能力をもつ巻き網漁業を保護することにつながっているとの指摘もあり、沿岸漁業者が反発している構図だ。巻き網漁船は日本水産やマルハニチロなどの世界最大級の水産会社のグループをはじめ、資本力のある企業が運営している。
また、今回資源評価をしたISCは「事実上、水産庁の息がかかった組織」という指摘がある。水産庁所管の水産研究・教育機構の研究者が中心となってアセスメントを行っているからだ。「『アセスメント』ではなく、水産庁が導き出したい結論を逆算して出す『アワスメント』だ」と揶揄する声もある。
(出所・ISC資料をもとにウェッジ作成)拡大画像表示
今回、資源評価を行ったISCのPBFWG(太平洋クロマグロ作業部会)で責任者となっている中野秀樹氏(水産研究・教育機構 国際水産資源研究所所長)は、「今回資源を下方修正したのは、資源量を導き出すプログラムの設定を修正したことが大きい。詳細については7月に発表するため、まだ具体的にどのように設定を変えたのか説明する段階にない」と話す。
回復目標値となっている14年評価時の歴史的中間値が、下方修正されたことについては、「前回評価時に導き出した4万2592トンと、今回評価時に出た3万8000トンの両方で回復シナリオを策定した。どちらを回復目標値にするかは行政の問題だが、いずれにせよ現行の管理措置でWCPFCの目標値をほぼクリアできるシナリオが描けた」と丁寧に説明してくれた。
「大間もいないんです」
全国各地から上がる漁師の悲鳴
IUCN(国際自然保護連合)によって絶滅危惧種にまで指定されたクロマグロをめぐっては、今回の資源評価が行われる前から全国各地の沿岸漁業者が悲鳴をあげていた。
クロマグロの産地として全国にその名を轟かせている青森県大間の漁師である能登勝男さんは「大間というとテレビ番組で大物を釣るシーンがよく報じられるので、あたかも資源量が豊富なように思われていますが、ほとんどの仲間が不漁に苦しんでおり、廃業もありうる状況です」と嘆く。
沖縄県石垣島の高橋拓也さんも「ここ数年、八重山漁協の漁獲量は下がり続ける一方です。『南西諸島付近ではクロマグロが増えている』という指摘もあるようですが、実感としてはまったくありません」と語る。