2024年12月13日(金)

医療神話の終焉―メンタルクリニックの現場から

2024年6月17日

 おとなになった知的障害者の親御さんたちの苦悩は、周囲に理解されにくい。知的障害児もおとなになる。知的には子どものままだが、体格は大きい。難しい話は理解できず、意思表示も上手でなく、具体的要求以外に自分の思いを伝えることはできなくても、それでも力は強い。暴れ始めたら、止められない。

(tongpatong/gettyimages)

 最も親御さんを悩ませるのが、強度行動障害と呼ばれるものである。具体的には、自傷行為、興奮、癇癪(かんしゃく)、暴言、暴力、強迫(こだわり)、性的逸脱行動などであり、時には、虚言、窃盗、器物破損、他害行為など反社会的行動にいたる場合もある。しかも、これらの問題行動に加えて、夜尿、尿失禁、便失禁、便こねなどの、小児期から続く排泄の問題が残存していることもある。

精神科医と知的障害者

 知的障害(者)の強度行動障害は、親・介護者にせよ、学校関係者にせよ、施設関係者にせよ、独力での対応は難しい。となると、医師に頼むということになる。

 小学生ぐらいまでなら小児科医が知恵を絞ってくれるが、中学生以上となるとすることが過激になる。結果として、行動症状のコントールに精通した精神科医がかりだされる。精神科医は、向精神薬(こころに効く薬)の使用法に精通しているので、多種多様な薬剤を使って、行動を制御しにかかる。

 ただし、知的障害の行動障害に対して、向精神薬のほとんどは保険適用をとっていない。向精神薬のなかでも、抗精神病薬と呼ばれるものは、統合失調症の治療薬であって、知的障害者の興奮を鎮めるためのものではない。

 知的障害者は精神病患者ではない。統合失調症に罹患しているわけでもない。この人たちに薬剤を使う場合、制度上承認されていない使い方(オフラベル使用)を敢行することになる。

 くわえて、一部の抗精神病薬には糖尿病のリスクが、また、すべての抗精神病薬に体重増加のリスクがある。ただでさえ自己管理能力の低い知的障害者に、わざわざ生活習慣病をもたらしかねない向精神薬は使いたくない。


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