平時の生活習慣にも留意を
「こういうときどうしたらいいのか」
これこそ、私どもが最も親御さんから尋ねられる質問である。ただし、その前に、普段から備えることの方が大切である。
睡眠不足、不規則な睡眠パターン、過度の疲労、過度の不活発、偏食などは、すべて行動症状を増悪させる方に傾く。成人のアルコールなども、当然そうである。
逆に、十分な睡眠時間、安定した睡眠相(睡眠・覚醒のタイミング)、バランスの取れた食事は、すべて行動症状を軽減する方に向かわせる。アルコールは、行動症状があり得る人ならば、普段から控えておくべきであろう。
知的障害者は、健康管理能力が低いため、小学生高学年から肥満の割合が増加し、成人に至って生活習慣病に罹患する人が多いとされる。小児期から積極的に生活習慣に介入することは、成人期以降の健康維持のために有益である。しかし、それだけではない。行動症状の緩和にも一役買うのである。
とりわけ、運動である。知的障害者の興奮は、個人差はあれ、情動の不完全燃焼という側面がある。したがって、散歩、体操、フィットネス、ダンス、卓球など、何でもいいので身体を動かす機会を作ることである。とりわけ、散歩は、毎日の日課としたい。
それによって就寝時に抗重力筋に疲労を自覚する程度に、一定の負荷をかけたい。適度な疲労は、夜間の睡眠を改善することにくわえて、そもそも、それ自体に精神安定作用がある。
昼間から積極的に屋外で体を動かして、自宅、施設にもどったときに不穏になる体力もないような状態に持っていきたい。あとは、入浴して、夕食をとって、寝るだけとしたい。
当時者・家族の会から学ぶ
筆者の関わっているプラダー・ウィリー症候群に関しては、「竹の子の会 プラダー・ウィリー症候群(PWS)児・者親の会」というものがあり、多くのご家族が加入している。そのほかにも、「22 ハートクラブ(22q11.2欠失症候群のある当事者の方・ご家族の方)」、「てんかん協会(波の会)」などさまざまなグループがある。
自閉症、多動性障害、学習障害に関しては、それこそ各地域に数えきれないほどの家族会・当事者会がある。これらは、孤独に陥りがちな親御さんにとって、貴重な存在である。
プラダー・ウィリー症候群のような希少疾患の場合、近くに同じ疾患の子をもつ親というのは、まずいない。「竹の子の会」等に加入すれば、先輩ママ、先輩パパから、「こんなときどうすればいいのか」のノウハウを伝授してもらえる。
かくいう筆者も多数の親御さんと診察室で話してきたので、親御さんから知恵を授かって、それを他の患者さんにお伝えしている。プラダー・ウィリー症候群についての必要な知識のほとんどは、親御さんの経験から学んでいるのである。
支援事例集から学ぶ
障害者の親御さんのなかには、地域的に当事者会・親の会に参加することができない人も多いだろう。その場合、行政の支援を受けることは当然だが、それにくわえて、インターネットにアクセスして、「強度行動障害 支援 事例」の3語で検索することをお勧めする。
そこには、厚生労働省、自治体、施設などに集積された豊富な支援事例が紹介されている。具体例の数々は、あなたのご子息・お嬢様にそのままあてはめるわけにはいかないが、それにもかかわらず、示唆に富む知恵の数々がそこに記されている。ご子息・お嬢様のために、参考になるはずである。