プラダー・ウィリー症候群の強度行動障害
筆者は、元来、知的障害者の行動症状の専門家ではなかった。現職についてみると、この病院にはプラダー・ウィリー症候群という希少疾患の専門家がいて、この小児科医から行動症状の緩和を依頼されるようになり、引き受けているうちに、200人近い同症候群の患者を診ることになった。同症候群は、程度の差こそあれ、思春期以降、強度行動障害を呈する。
筆者がプラダー・ウィリー症候群を診ていると、小児科医たちの間で「あいつは精神科医のわりに行動症状に強そうだ」という評判が立つ。そのうちプラダー・ウィリー症候群以外の知的障害に関しても、行動症状のコントロールを頼まれるようになった。
プラダー・ウィリー症候群は、1万5000~2万人に1人の割合で発生する遺伝疾患で、行動症状は多彩かつ激烈である。その一方で、この症候群には、低基礎代謝と満腹中枢機能不全という深刻な問題がある。前者は、太りやすい体質という意味であり、後者は食べても満腹感を得られないことになる。
この両者を併せ持つことから容易に想像できるが、この症候群の患者はたちまち病的肥満に陥る。厳密な食事コントロールを行わない限り、糖尿病、肺炎、皮膚感染症、心不全等を発症して、短い生涯を終える。
プラダー・ウィリー症候群の平均死亡時年齢は、Bellisら(2022年)は21歳とし、Butlerら(17年)は、29.5±16歳としており、かなりのばらつきがある。どの報告も肥満とその関連疾患を短命の原因としていることには変わりない。
本邦、とりわけ、獨協医科大学埼玉医療センターのように実践知の蓄積された病院に通っている患者の場合、幼少期から生活習慣指導を徹底的に受けているので、家族の意識も高い。結果として、おそらく、Butlerら(17年)のデータよりもプラダー・ウィリー症候群の寿命は延びているはずである。そうはいっても、私どもも10代、20代で多くの患者を見送ってきたことは確かである。
行動症状の非薬物的対応
これは、プラダー・ウィリー症候群に限らないが、世界中の精神医学会の診療ガイドラインは、知的障害者の行動障害に対して、おしなべて非薬物的対応をとることを第一に勧めている。
では、非薬物的対応とは何をすればいいのか。標準的な方法はない。その障害者の行動パターンをよく見て、それに合わせて対応法を考えていく。
まずは、その障害者において、修正すべき問題行動が何であり、それをどのような行動に変えていくべきかを明らかにする。そして、環境要因をよく見て、問題行動を誘発し、持続させている原因を探る。
具体的には、ある生徒、ある人物のことが気に障って、怒っているのかもしれない。ある言葉で恐怖を感じて、パニックに陥っているのかもしれない。本人にとって想定外と思えることが発生して、どう対応していいかわからなくて、うろたえているのかもしれない。
本人なりの不穏に陥るパターンがあるはずである。それを見つけることが、対処方法の工夫につながる。
癇癪、興奮、パニックのほとんどは、本人なりの回避行動である。本人にとって、何らかの心理的負担がかかっているからであり、それを除去することができれば解消につながるはずである。