イタリアが抱える問題は、想像以上に深刻だ。「タンジェントポリ(汚職の町)」と呼ばれる1990年代前半の大疑獄(大規模な汚職事件)がイタリア戦後政治を一変させた。今、ローマ市を舞台にした汚職事件「マフィア・キャピターレ」が民主党や、ベルルスコーニ元首相の政党フォルツァ(頑張れ)・イタリア、地域政党・北部同盟による左派と右派の「第二共和政」にとどめを刺そうとしている。
ローマ・テルミニ駅近くで暮らすマッツォーネさんは周辺の移民街を歩きながら話す。「昨年夏、水道・エネルギー事業会社aceaに対するローマ市の滞納金が10万ユーロ(約1100万円)を超え、対象区域の水道が1週間止められた。お年寄りや病人を含む約300人が真夏に水なしの生活を強いられた。完全に憲法に違反している」。
ローマの夏は暑い。水道を止めるのは市民の生存権を奪うに等しい。しかも料金を滞納したのは市民ではなく、ローマ市だ。aceaの株式はローマ市が51%を、残り49%を民間が保有する。レンツィ現政権は積み上がった政府債務を減らすため国有財産の民営化計画を掲げるが、ラッジ市長は「水道水の供給はローマ市が責任を持つ」と立ちはだかる。実を言うと、水道が止まったのはローマ市の腐敗と密接に関係している。
ローマの政財官が絡む「マフィア・キャピターレ」では数十人が逮捕された。「マフィア」と言っても、コッポラ監督の米映画『ゴッドファーザー』に出てくる昔のシシリアン・マフィアとは異なる。機関銃とは無縁の犯罪組織だ。公共サービスを発注するローマ市当局者と犯罪組織が癒着し、難民施設の整備や食事の供給をめぐって不正を繰り返していた。組織の幹部は「難民はコカインよりカネになる」と言ってのけた。難民施設で提供するサービスの架空・水増し請求が横行し、犯罪組織は濡れ手に粟の不法利得を稼いだ。公共墓地では供えられてもいないロウソク代まで市に請求された。耐震基準もごまかされ、地震被害を拡大させた。
ローマ市の財政は犯罪組織に食い物にされ、水道供給や公共交通機関、ゴミ回収に必要な資金が回らなくなった。市営バスは多くの乗客が無賃乗車だ。民主党の前市長は公金支出スキャンダルで辞任した。ラッジ市長に敗れた民主党の対立候補は、イタリアでも大人気の日本のロボットアニメ『鋼鉄ジーグ』を例に引き、「ローマは鋼鉄ジーグを必要としている」と嘆いた。それほど腐敗は進行しているのだ。