2024年4月20日(土)

WEDGE REPORT

2016年9月13日

初めて全面公開されたローマ市庁舎を見学するために並ぶ市民(写真・MASATO KIMURA)

 1回に入場できるのは30~40人と限られているため、セナトリオ宮の外には気の遠くなるような長い列ができた。最長3時間半待ち。最初のグループを案内したあと、ラッジ市長が列をつくる市民1人ひとりと握手し、「グラッチェ(ありがとう)」と声をかけた。彼女の立ち居振る舞い、表情、仕草のすべてが絵になる。「政治腐敗を何とかして」「ゴミ回収やバスの運行を改善してほしい」と市民が声を上げる。ラッジ市長は立ち止まり、「改革には時間がかかる。私たちに時間を下さい」と真剣な眼差しを向けた。

 ラッジ市長はローマ第3大学で法律を学び、弁護士になった。結婚して一児を授かり、ローマ市内の二重駐車の多さに衝撃を受けた。車の隙間を、ベビーカーを押して通り抜けなければならない。「美しいローマがこんなにひどい状態になり、腹立たしかった」という。2011年に「五つ星運動」に参加したが、政治経験はローマ市議に初当選してからの3年間だけ。市長選では公共交通機関の整備、情報公開、ゴミ政策、環境の改善など、ローマを正常化する11のステップを訴えた。

 レンツィ改革で女性の政界進出は進んだが、イタリア女性の労働参加率はまだまだ低い。「子供を産むなら仕事を辞めろ」という無言の圧力がかかるからだ。ラッジ市長のように家庭も仕事も両立している女性は改革のシンボルだ。イタリアと日本の国旗をあしらい、「友」とプリントしたTシャツを着たロッコ・ディサントさん(35)は日系企業に勤務している。「ラッジ市長や五つ星運動がイタリアの改革に失敗したら、私たちはたった1つの希望を失ってしまう」と話した。

「五つ星運動」創設者で元コメディアンのベッペ・グリッロ氏(写真・REUTERES/AFLO)

 元コメディアンのベッペ・グリッロ氏(68)が09年に創設した「五つ星運動」は今回、4大都市のうち首都ローマとトリノの市長選を制した。ラッジ市長は決選投票で3分の2を超える支持を得て民主党の対立候補を撃破した。トリノでも女性候補キアラ・アペンディーノ氏(32)が民主党現職を破った。最近の世論調査では「五つ星運動」が政権与党の民主党を何度も上回っている。レンツィ首相は11月ごろ、上院の権限を削ぎ下院優越を明確にする憲法改正を国民投票にかける予定だが、英誌エコノミスト元編集長ビル・エモット氏は筆者に「おそらくレンツィ首相は敗れて辞任、総選挙になる。どの政党も過半数を形成するのは難しい」と語る。政治の地殻変動はもう誰にも止められない。

トリノ市長となったキアラ・アペンディーノ氏(写真・EPA=JIJI)

 TVやラジオのフリーランスジャーナリストとして働くアンナ・マッツォーネさん(45)は「イタリア空軍のパイロットだった75歳の父は政治に失望し、20年間選挙に行ったことがなかった。それがローマ市長選では五つ星運動に1票を投じた。年金生活者も政治の変化を求めている」と指摘する。


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