上記は、興味深い見解です。従来、豪州の中国観は総じてソフトなものであり、中国の脅威も左程感じてきませんでした。同時に、価値を共有する国として対米同盟は強固に保ってきました。ところが、南シナ海の問題や中国の対豪投資の問題などを契機に、豪州の中国に対する安全保障観がより現実的なものに変わり始めています。これは、悪いことではありません。
ラックマンは、今の問題の根源は中国の台頭にかかる戦略上の問題であるといいます。まさにそうでしょう。中国がかつて宣言したように「平和的」な台頭であれば問題はありません。しかし最近の中国の言動や振る舞いを見れば、とても「平和的」とは言えません。覇権主義であり、拡張主義です。
中国の最大の障害
南シナ海の問題を契機に、今中国の対外関係はほぼあらゆる正面で閉塞状態にあります。中国から見て最大の障害は、米国を中心とする日本、豪州、韓国などの同盟です。それを打破するために、第一に日本への対応を厳しくし、第二に韓国、豪州と米国の間に楔を打ち、第三はASEANの国々を分断しようとしています。中国の対豪州戦略は対韓国戦略と同様に中国の対ミドル・パワー戦略とも言えるもので、今後経済分野を含め対抗措置をとっていく可能性もあります。この戦略には結構高い優先度が置かれているものと思われます。
THAADに関する韓国に対する中国のメディアの執拗な批判や中国における韓国文化活動の停止などは、韓国の政府内外に大きな心理的圧迫を加えています。今の中国の言動を見る限り、対中均衡を強化していく他により良い政策はありません。米国を中心に日本、豪州、韓国の連携を一層強めていくことが重要です。
中国の海洋進出の行動は国際秩序に挑戦する勢力であるとの中国の姿を世界に印象付ける結果になっています。中国に対する信頼感は大きく低下しています。英国のメイ新政権は、仏EDFと中国の企業が建設するヒンクリーポイント原発の最終決定を延期しました。在英中国大使が激しくこれを批判する書簡をメディアに投稿しましたが、問題の深刻さが窺われます。メルケル独首相の対中姿勢も最近厳しくなっているといわれます。漸く欧州がアジアの現実を理解し始めたのであれば良いことです。
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