2024年11月22日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2016年9月6日

 ワシントンポスト紙コラムニストのイグネイシャスが、7月29日付同紙掲載の論説で、プーチンが大統領選挙にクリントン落選を狙って秘密工作を仕掛ける可能性があると指摘、警戒を呼び掛けています。論旨、次の通り。

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 ロシアの情報機関は長年、「active measures」(注:政治工作や秘密工作)を行ってきたが、今、米の政治システムに対して工作をしている。しかし、スパイにとって最重要な原則、「捕まるな」を破ってしまったようである。

 米高官はロシアの情報機関が民主党全国委員会のファイルを昨年ずっと、ハッキングしたとの強い証拠があるという。その情報の一部を意図的にウィキリークスに漏らしたかどうかははっきりしないが、そう疑う専門家もいる。ロシアのハッキングはクリントンの選挙運動と民主党議会のキャンペーンのコンピュータにも及んでいて、大規模であると報じられている。

 オバマは、ロシアが米の選挙に影響を与えようとするか、テレビで聞かれ、「なんでもありうる。彼らが我々のシステムをハックしていると知っているし、欧州で彼らは定期的に選挙に影響を与えようとしている」と述べた。

 プーチンは冷戦中、こういう工作をしたKGB(国家保安局)文化の中で育った。彼はハッキングその他の秘密手段をクレムリンに持ち込み、ハイブリッド戦争と言われているものの一部にしてきた。米高官によると、ロシアの情報機関は欧州の右派政党に秘密資金を与え、秘密のプロパガンダで支援し、ウクライナの電力網を狙うなど、隣国へのサイバー攻撃もしている。

 プーチンがこういうことをするのは、効果があるからである。外部には見えず、関与を否定しうる。そのうえ、やられた側はやり返さないことが多い。
しかし民主党全国委員会のハッキングは行き過ぎであったようである。アスペン安全保障フォーラムに集まった国家安全保障関係の高官は厳しく反応した。司法省高官は外国のハッキングを見つけたら公表すべしといい、クラッパー国家情報長官は、民主党全国委員会のハッキングの犯人を特定する用意はないが、情報面ではロシアとすでに「戦争状態」にあると述べ、国防省の次官補は、クレムリンはactive measuresを使い、政治的混乱を作り出そうとしていると述べた。

 米高官は、11月の選挙前にロシアが介入する可能性を懸念している。これはトランプがモスクワに勧めたように、クリントンを困惑させるEメールの公表かもしれないし、虚偽のニュースの流布や金融市場の混乱を招く方策かもしれない。米の政治システムはオープンで脆弱な対象である。

 モスクワは単に情報収集をしているのかもしれないが、クリントンに特別の敵意を持っているのかもしれない。国務長官のころに、ロシアの選挙でクリントンは反体制派候補を支持し、プーチンが激怒したことがある。

 民主党全国委員会は4月に問題に気付き、Crowd Strikeという会社を雇い分析した。ロシア諜報のインターネット・アドレスが民主党全国委員会のシステム内にあった。ルーマニアのハッカーがウィキリークスへの漏えいの責任を認めているが、これは偽装であろう。

 トランプはどうか。モスクワがハッキングで有利にしたいのは彼であるという。しかし、トランプは、ロシアの諜報が「役立つ馬鹿者(useful idiot)」と呼ぶ、意図せずにモスクワの不安定作戦に役立つ人間であるように思える。

出典:David Ignatius,‘Russia’s DNC hack: A prelude to intervention in November?’(Washington Post, July 29, 2016)
https://www.washingtonpost.com/opinions/russias-dnc-hack-a-prelude-to-intervention-in-november/2016/07/29/ec242722-55c2-11e6-b7de-dfe509430c39_story.html


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