2024年11月22日(金)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2010年2月14日

 さらに、「米国大統領が誰と会おうが、多国の誰からもとやかくいわれる筋合いでない」という大原則はこの国では子供でも承知している常識だ。そのうえで、「まぁ、中国の反発はおきまりのことだから」と冷笑する。つまり、「中国の激しい反発」が国際政治というゲームにおける「お約束」だということも誰もが百も承知なのである。

 日本の政治家や大手メディア、進歩的文化人らのコメントのように、「右手の国からこういわれた」とか「左手の国の反発が……」ということで右往左往する空気は一切ない。

 一方で、チベットに深い同情を寄せる人でも、このニュースに感情的に目くじら立てることもなく、意外なほど冷静に受け止めている。

ハリウッド俳優もダライ・ラマに傾倒

 他方、そんな米国での官民挙げてのダライ・ラマ人気は、日本では想像し難いほどエモーショナルで、ときに熱狂的にさえ映る。

 ダライ・ラマは毎年必ず渡米し、短いときでも半月ほど滞在して、アメリカ各地で説法や講演を行なう。野球のスタジアム等が会場とされ、1回の講演であっさり数万人を集めてみせる。下世話な言い方だが、その「集客力」たるや凄まじい。過去には、ニューヨークのセントラルパークに20万人以上を集めたという驚異的な実績もある。

 リチャード・ギア、シャロン・ストーンといったハリウッド俳優らがこぞってダライ・ラマに傾倒し、政界では現在、下院議長を務めるナンシー・ぺロシ女史は筋金入りのチベット・サポーターだ。

 ブッシュ政権末期、民主党が議会の多数派となりペロシが下院議長の座に就くと、米国議会が贈る最高の栄誉である「ゴールドメダル」のダライ・ラマへの授与を実現させた。

 その贈呈セレモニーでの一コマは印象深い。ダライ・ラマはいつものエビ茶色の質素な法衣姿にいつもの笑顔、ペロシの先導で大統領の前へ歩み出た。すると、一方の手で大統領の手を取り、「犬猿の仲」として有名だったペロシの手と重ね合わせた。

 「米国と世界のために、あなたたち仲良くしなさいよ」

 というコメントが発せられたわけではなかったが、そういう意味合いで握手をさせたのだ。会場は万雷の拍手、ダライ・ラマはいたずらっぽい笑みを浮かべ、ブッシュ、ペロシは苦笑していた。米国の二大権力者に向かってこんな芸当が可能なのは、世界広しといえどもダライ・ラマくらいのものである。

米国の在チベット領事館設立法案とは?

 ペロシが議長となって以降、米国下院はチベットに関する新たな法案を可決するなど、中国を刺激させるであろう活動をも活発化させてきた。日本ではこうした経緯はほとんど伝えられないので、今般の「オバマ、ダライ・ラマ会談」だけが唐突に中国への刺激となっているかのように誤解されかねない。


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