2024年11月22日(金)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2010年2月14日

 「自由」「民主主義」の盟主たる米国で、ことに「ウルトラリベラル」ともいわれるペロシら人権派の政治家が、その理念に忠実にチベット問題の解決に熱意をもっているという側面がもちろん否定できない。

 しかし、米国のチベット関与にはもうひとつ大切な「狙い」があるのだ。

 世界の覇権を握るということはすなわち、世界の資源の覇権を握るということである。チベットの大地は天然資源の宝庫であり、また、ほぼ全アジアを見下ろすことのできる「天然の高台」という戦略的・軍事的に極めて重要な立地にある。

 しかもチベットの地に眠るのは、石油・石炭といった20世紀型の資源ではなく、IT機器、電気自動車に必須のレアメタルを含む21世紀型鉱物資源である。今世紀の資源覇権を賭けた闘いを想定すると、チベットは最重要地域のひとつといっても差し支えない。

日本はチベットとどう関わるべきか?

 一昨年の来日の折、非公式な場でダライ・ラマはこう語っている。

 「どういう手段でも構わない。中国政府との協力の上でもいいから、日本がチベットの地に何らかの関与をしてほしい。環境調査でも技術協力でも何でもいい、日本人がチベットの地に実際に降り立ち、仕事をする状況を作ってほしい」

 これを当時、野党であった民主党の有力議員に伝えた。真意を図りかねたようだったので、私の独断で次のようなことを付け加えた。

 アメリカが相当の予算を割いてまでチベットに関与し続けるのは、けっして人権大事のためだけではない。もしも将来、一党独裁の中国共産党政権に一丁事あったとき、チベットに何が起こるか? を想定してのことである。

 そのとき、チベットの行方に最も強い影響力をもつこと間違いないダライ・ラマ側に対し、現在、援助を惜しまない政策は米国自身の将来の国益への保険あるいは投資である。

 人権・人道以外のこうした観点からも、日本の政府や議会はこの問題に何の関心ももたなくてよいのか? 日本の指導者、マスメディアは、いつまでもダライ・ラマを「宗教的指導者」という枠で見ることに固執し続けるだけでいいのであろうか? 甚だ疑問である。

 一方、中国共産党政府はいつまでもダライ・ラマを「国家分裂分子」といって非難しているだけでよいのか? 何しろ犬猿の仲である米国のトップ2を皆の前で握手させられるほどのダライ・ラマの外交力、世界中の誰からも「善の権化」のように崇められるダライ・ラマの発信力は卓抜という言葉をはるかに上回るものがある。

 今や世界中で怖れられることはあっても、好感や敬意をもたれることの少ない中国という国にとっても、ダライ・ラマが非常に重要な存在になり得ることは間違いない。

 現在の中国が抱える多くの問題を救える救世主は実はダライ・ラマかもしれない。共産党指導部がそれに気づくのは一体いつのことなのだろうか?

※次回の更新は、2月17日(水)を予定しております。

◆本連載について
めまぐるしい変貌を遂げる中国。日々さまざまなニュースが飛び込んできますが、そのニュースをどう捉え、どう見ておくべきかを、新進気鋭のジャーナリスト や研究者がリアルタイムで提示します。政治・経済・軍事・社会問題・文化などあらゆる視点から、リレー形式で展開する中国時評です。
◆執筆者
富坂聰氏、石平氏、有本香氏(以上3名はジャーナリスト)
城山英巳氏(時事通信社外信部記者)、平野聡氏(東京大学准教授)
◆更新 : 毎週水曜

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