2024年11月22日(金)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2010年2月14日

 2009年6月、米国下院が可決した法案は、「在チベット領事館設立法案」と仮称され、02年から既存の「チベット政策法」を以下のとおり積極化させた内容である。

(1)米国政府に対し、中国政府と接触する全ての執行機関が米国のチベット政策にリンク(協調)していることを、国家安全保障会議(NSC)を通じて確認するよう指示。

(2)チベットに米国領事館が設置されるまで、北京の米国大使館内にチベット担当部署を設立することを認可。さらに政府に、米国領事館をラサに設置するよう努力するよう指示。

(3)(2)のラサの米国領事館は「チベットを旅行する米国市民へサービスを提供し、青海、四川、甘粛、雲南省のチベット人居住区を含むチベットの政治的、経済的、文化的発展を監視する」ものとしている。

(4)チベット人に対する奨学金や研究補助金の制度を認可し、予算をチベット文化と歴史の保護や、チベットの経済発展、環境保護、教育、医療サービスに充てる。

(5)中国に対し、チベット仏教における転生のシステムなどのチベット人の宗教的問題への「あらゆる干渉」をやめるよう求める。

アメリカがチベットに関与する狙い

 チベット問題について話をする機会があると必ず、日本人から次のような質問がある。

 「キリスト教徒の多い欧米でなぜ、ダライ・ラマはあれほど人気があるのか? やはり多くの人が『癒し』を求めているためだろうか」

 この問いかけに私は必ず「NO」と答えることにしている。

 米国、とくに「政治の街」とのイメージしかないワシントンDCの周辺を巡っていると、大小様々のキリスト教会の多さに驚く。日曜ともなれば、これまた驚くほど多くの人が教会へ集う姿も見られる。大統領が就任の際に、聖書に手を置いて宣誓をするこの国が、まさに「キリスト教」の価値観を国是とする国だということをよく実感できる風景だ。

 欧米人がダライ・ラマに傾倒するのは、彼らがもともと敬虔なキリスト教徒、あるいはキリスト教的思想の中で育てられた人々であるからだ。「信心」が身に沁み込んでいる者にしか、神性の価値、重要性は理解できない。

 共産主義の唯物主義的な面と拝金主義とが都合よくミックスされ、そこへ中華思想がトッピングされた中国共産党の指導層は、人にとって「信心」なるものがいかに重要か、をまるきり理解できないでいる。だから、ひたすら武力で弾圧するか、小金を与えるしか知恵がなく、結果、弾圧しても弾圧しても屈しないチベット人に手を焼いている。

 そんな米国で、ダライ・ラマとチベット問題は政治的にいかなる位置づけにあるのか?


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