2024年4月30日(火)

ちょっと寄り道うまいもの

2010年2月24日

 それだけでなく、サバで作った馴鮓は極上のシメサバの風情。余呉湖で主人自らとったという天然物のウナギをハモのように切ってゆがき天然ワサビを添えたものや、これまた、自身でとった実山椒をつけて焼いたものも絶品。言葉が見つからぬ。

 ほかの魚介も、仲間がとっているというイノシシやクマなど、素材も素晴らしく、調理法も完璧だ。宝の山を見つけた思い(クマ鍋最高!)。

 湖や山からの幸ゆえ、時期によってないものもあるかもしれないが、今回、食べられなかった美味珍味もまだまだ、あるとも言う。

 正直にいって、紹介するのが辛い。今でも知る人ぞ知るところなのに、これ以上混んで、私が行けなくなったらどうしようとマジメに心配してしまう。編集担当者に次はこんなテーマと話してしまったから、しょうがないのだけど。

 えーい、もう一軒。そこから西へ湖西線に揺られて、マキノ駅。こちらには鮒鮓をはじめとする琵琶湖の幸を売る老舗「魚治〔うおじ〕」と、それらを食べられる料亭「湖里庵〔こりあん〕」がある。その名でお気づきの通り、狐狸庵先生、遠藤周作が愛したところである。目の前に海のような琵琶湖が広がる、絶景の料亭。

 鮒鮓自体の上品な美味しさは、こちらも負けない。カマンベールチーズと鮒鮓を合わせた一品などの面白さ、意外なような当たり前なような、発酵食品のハーモニーもよろしい。琵琶湖の畔〔ほとり〕は京都と小浜などの日本海の漁港をつなぐ道でもあったのだと気付かされる海の幸。

湖里庵の鮒鮓茶漬け。乳酸発酵の酸味と旨みが溶けだし至福の味わいに

 最後に私が作るものよりずっと上品な鮒鮓の茶漬けを啜りつつ、満ち足り、思う。鮒鮓が美味しいところは、たとえ、鮒鮓が好みでなくても、きっと満足してもらえるに違いない、美食が発達したところなのだと。旨みの極致に慣れ親しんでいる人々なのだから、旨さに敏感なのも当然か。

 いやいや。そんなことを書いたら、ますます来にくくなるか。買いにいくならともかく、ほど良い広さの料理屋さんだもの。予約が取れなくなってしまう。

 鮒鮓の濡れ衣を晴らしたいが、晴らさぬほうが自分のためのような。悩ましい。

■徳山鮓
北陸本線余呉駅から車で約3分
滋賀県伊香郡余呉町川並1408 ☎0749(86)4045
営業時間/12時~14時30分、18時~21時(要予約)
定休日/不定休

■湖里庵
湖西線マキノ駅から徒歩で約20分
滋賀県高島市マキノ町海津2304 ☎0740(28)1010
営業時間/11時30分~15時、17時~21時(要予約)
定休日/火曜(祝日の場合は営業)

◆「ひととき」2010年3月号より


 

 


 

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