ただ自分の周囲の友人や知人の例を見ても、例えば商社や証券会社で、業界1位と2位の企業で、入社時点での人材の質が大きく異なるかということはあまりないような気もする。
逆にある銀行では、ある年と翌年の採用でリクルートの手法を少し変えただけで、優秀さの度合いが異なる、全く違うタイプの社員が集まったというケースもあった。
対象者の「何を見るか、何をみないか」
著者は採用でミスマッチを起こさない重要さも指摘する。企業が自社をめぐるポジティブな情報を出し過ぎて採用すると、その後、現実とのギャップに違和感を持つ人も出てくるからだ。
〈結局、現実的な相互期待のマッチングがなされていない多くの社員を生み出してしまう〉こととなり、最終的に大量離職を招くことになる。
さらに
〈教育研修やキャリア、昇進といった部分で、社員と企業の間の期待のミスマッチが入社後に大きな問題として表出する〉という著者の研究成果は、自分も企業に所属する者の一人としてわかるような気がする。企業はきめ細やかに情報を出して理解を進めることが大切なのだろう。
優秀さとは何か。選抜時のポイントとは何か。本書では興味深い指摘が並ぶ。それぞれが具体的な事例やデータを使いながら詳しく解説されている。
また採用にあたって対象者の「何を見るか、何を見ないか」も重要で、ゲーム化している日本の採用の中で、その基準が変わっていくことも起こりがちだ、という指摘は同意できる。基準をしっかりもち、みるべきポイントを絞り込むという指摘は多くの企業に共通することだろう。
本書の中で印象に残る言葉に「採用イノベーション」という表現があった。画一的なスタイルに陥らないように、実に多くの企業が様々な工夫をこらしているのがわかる。求職者に複数のエントリー口を用意する製菓会社や、フリーターを積極採用する運輸関連企業など、豊富な事例が紹介されているのは興味深い。
採用という企業それぞれに固有の事情や特徴がある難しい分野を科学的に分析した力作である。採用する側、される側の双方に大いに参考になるだろう。
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