だが、実際には「政策の変化」どころか、台湾への武器売却もダライ・ラマによる大統領訪問もいずれは起きる不可避の出来事であり、さらに言えばオバマ大統領はAPEC後の会談で胡国家主席に直々に両問題について「警告」していた。
これは繰り返しておくべき重要な点だ。まず、台湾への武器売却については、米国は台湾に「防衛のための武器」を売る法的な義務を負っている。ジ ミー・カーター大統領(当時)が1998~99年に対中関係を「正常化」させることを決め、その大統領判断を承認する形で制定された台湾関係法に定められ ているのである。
それ以来、ロナルド・レーガン、ブッシュ・パパ、ビル・クリントン、ジョージ・ブッシュを含むすべての大統領が台湾に武器を売却した。一人残らず全員が売ってきた。
このため、問題は武器を売却するか否かではなく、何をいつ売るか、だ。時期と中身に関する答えを左右するのは実に多岐にわたる複雑な問題で、それは時に互いを補強する問題だったり、時に矛盾する問題だったりして、すべて挙げていけばコラムの紙幅が尽きてしまう。
武器パッケージを見れば、アメリカの腹がわかる
いずれにせよ、米国の狙いの根底にあるのは、アジアの平和と安定のためには中国と台湾の衝突を避けることが一番であり、また、台湾海峡を挟んだ中台情勢の最善の結末は、台北、北京の両政府が許容できる平和的な結末だ、という考え方だ。
そう考えると、台湾政府が対米関係に自信を持っている場合、その政権は北京の中央政府との平和的交渉にむしろ前向きである可能性が高いという明白 な事実には、どこか皮肉なところがある。そして、米国による思慮深い武器売却は実際、より安定した台湾政府を北京中央政府との真剣な交渉に前向きにさせる 役目を果たすというところに、さらなる皮肉がある。
だが、ここでも、なぜ中国政府当局がこうした皮肉な事実を受け入れようとしないのか探ろうとしたら、丸ごと1本分のコラムが必要になる。
今月のコラムの目的に沿って、ここでは1つだけ指摘するにとどめよう。米国議会が継続的な武器売却を定める台湾関係法を成立させた背景には、米国 大統領に「いつ・何を」という問題について裁量的な権限を与えるが、中台関係が、台湾市民が満足するような最終決着を見るまでは――あるいは見ない限りは ――大統領に「売らない」権限を与えないという明確な目的があったということだ。
オバマ大統領が先の武器売却を発表したのは、胡国家主席に腹を立てているからだとする非難や主張は、60億ドルの武器のパッケージはすべてブッシュ政権の「残り物」であり、以前の武器売却のオファーを受けて動かなかった台湾政府のミスの産物だという事実を無視している。
また、中国側のやかましい反応がぼやかしてしまう重要な点は、オバマ大統領の決断は実は、ブッシュ前大統領が提示した非常に「物議を醸す」オ ファーを自制するものだったということだ。つまり、台湾が通常型潜水艦を手に入れるためにカネを出すという、中国が心底嫌がるオファーである。
最後に、オバマ大統領は今日に至るまで、重量65トンのジェット戦闘機「F16」――厳密に軍事的即応態勢の観点からすれば、台湾が長年必要とし ているもの――については、台湾政府が正式に購入を要請することも、米国防総省が正式に売却を推奨することも認めるのを拒んできた。