さて、最近よく感じるのは経済が強くて豊かな国家群が決して幸福ではないということだ。
逆にルクセンブルグやオーストリア、スイス、フィンランドやベルギーは大国ではないが、落ち着いていてオンリー・ワンの強みと特徴を持っている。
その意味ではシンガポールは小国であり、経済的にも成功し、リー・クアンユー元首相の理想を実現化した国家だから幸せな国であるはずだ。シンガポールは独立後わずか50年でアジアで最も豊かな国となったが、果たして本当に国民は幸せになったのだろうか?
なぜシンガポールが行き詰まったのか?
わが社(AMJ)は4年前にシンガポールに現地法人を設立し、経営面では一応の成功はしたが、最近の印象では何となく物足りなさを感じている。ここで簡単にシンガポールについておさらいをすると、シンガポールは東京23区とほぼ同じ広さの島に、米国や日本などから資本と技術を導入し工業化に成功した国家だ。
90年代に人件費が高騰すると、ハイテクや金融サービスが主体の産業構造へと転換し、経済的には成功した。同時に高層ビルや緑が調和した景観があり汚職は無く治安の良さも最高だ。シンガポールの国民1人当たりの国内総生産(GDP)は2007年に日本、2011年に米国をそれぞれ追い抜き、現在は独立時に比べ100倍以上の約5万5000ドルに膨らんだ。
ところが、シンガポールに実際に住んでみると、国民の生活は格差の拡大などで「能力至上主義」の成長モデルは行き詰まっているように見える。実際のところ、米国の調査会社ギャラップが2015年に発表した日常生活の「幸福度」調査で、シンガポールは、148カ国中、なんと最下位だった。
シンガポールの光と影
街にはゴミひとつ落ちていないし、なぜかハエや蚊などもどこにも飛んでいないという気持ち悪いほどの衛生管理がなされている。いまや安全で清潔な世界的な観光都市となったが、実際に住んでみると何か息苦しさを感じる管理社会で、富裕層にとってはよいのかもしれないが、一般庶民にとっては住みにくく疑問が残る部分が多いようだ。
無論、何から何まで100点満点の国家などはありえないし、何事にも光があれば影もある。でも、はたして「富の集中」と「繁栄の追求」だけが国民にとって幸せなのかということが問題になる。