K氏のアパートの前に着いて見ると、黒いユニフォームに身を包んだ男が三人。聞くとセキュリティだという。難民は、テロリストに命を狙われる可能性があるので、このような措置が取られているという。住民の静かなる日常は、モノモノしい日常へと変わった。
セキュリティの視線を浴びながら、K氏の案内でアパートの中へ。かなり薄汚い。清潔を旨とするドイツ人ではあり得ない感じ。ドイツの冬は日が短い。このためドイツ人は、窓をかなりキレイにする。その窓が汚い。また絨毯は斑、隅の方は湿っている感じがする。壁には子供の落書き、削れているところすらある。
掲示板コーナーには、4カ国語の張り紙がしてある。アラビア語系であることは、うかがい知れるのであるが、まったく分からない。一部、英語で書かれているモノもある。内容は「14歳になるまで、一人でエレベーターを使わないように」ということだった。
また、はみ出した位置には、メンタルケアのポスターがあった。高層階に上がるために、エレベーターに乗ろうとしたが、ここの床は特に汚い。ガムの捨て跡がいたるところに散見される。エレベーターに乗り込むと、10歳位の女の子が一人で乗ってきた。小ぎれいな感じで、少なくともみすぼらしさは感じられない。ボタン操作も鮮やかに、さっさとエレベーターを動かし、降りて行った。状況から見て、張り紙の効果もないし、今までと違う生活空間になっている感じである。
K氏によると、やはりアパート内の公共部分は段々汚くなっているそうだ。
アパートの裏口から出ると、そこは食堂から眺められる花壇になっている。食堂は元々レストランスペース。ちょっとした集団生活の場合、食堂スペースは何かと便利。案外このスペースがあったので、難民の居住に定めたのかもしれない。
その食堂外には、ゴミコンテナが並ぶ。金属でできたモノは古くからの設置。先住人が使っており、ドイツ人の几帳面さそのまま。フタもキレイに閉まっており、臭いもしない。逆側には、難民のためのゴミコンテナ。こちらはプラスチック製で車輪付き。臨時設置であることが一目瞭然である。こちらは列もヨレヨレどころか、フタは飽きっぱなし。
そこへ難民と思われる女性がゴミを捨てに来た。見ていると、ゴミの入れ過ぎでフタが閉まらなくなったコンテナの上に載せ、チャツチャツと歩き去る。我々が居ても無視。目に入らない感じである。夕方になり、アパートの前に、暇な難民がたむろし始めた。十人以上なので、圧迫感を覚える。
難民への過度な保護対応が原因か?
何でこんなにゴミがでるのか? と、友人に聞いてみると、配給物が非常に多いためだという。前に書いた通り、三食全て支給される、服なども、ボランティアらが差し入れするため、小ぎれい。その上、月に一度支給金もある。自転車を持っている難民も多い。子供は学校に行くが、大人は日がな一日することがない。このため、たむろしてタバコを吸ったりして時間をつぶす。こんな状況下、赤ちゃんもそれなりに増えているという。