今回のテーマは「第2回テレビ討論会」です。第2回目のテレビ討論会は、10月9日(以下現地時間)中西部ミズーリ州セントルイスにあるワシントン大学で開催されました。第1回目の討論会とは異なり、2回目は会場にいる「決めかねている」有権者が直接候補者に質問をするという対話集会の形式をとりました。それに加えて、2人の司会者がインターネットを通じて事前に募った質問を候補者に投げかけたのです。
本稿では、共和党ドナルド・トランプ及び民主党ヒラリー・クリントン両候補に起きたオクトーバーサプライズ(10月の驚く出来事)、非言語コミュニケーション戦略並びに無党派層の獲得の3つの視点から第2回目のテレビ討論会を分析します。そのうえで、最終回となる第3回目の討論会における両候補の課題について述べます。
トランプ・クリントンのオクトーバーサプライズ
米大統領選挙では本選挙の投票日の1カ月前に起き、選挙結果に大きな影響を及ぼす出来事をオクトーバーサプライズと呼んでいます。2012年米大統領選挙では投票日の10日前、ハリケーン「サンディ」が主として東部ニュージャージー州及びニューヨーク州に甚大な被害をもたらしました。共和党候補ミット・ロムニー元マサチューセッツ州知事(当時)を強く支持していたクリス・クリスティニュージャージー州知事(共和党)は、オバマ大統領と被災地を回り協力して即座に対策を講じたのです。この映像が流れると、南部バージニア州フェアファックス市にあったオバマ選対では有給のスタッフがガッツポーズをとったのです。当時、同選対にはサンディがオバマ大統領に勝利をもたらすという共通認識がありました。
米大統領選挙は10月に入り、トランプ・クリントン両候補はオクトーバーサプライズに直面しています。トランプ候補は、最長18年間にわたり連邦所得税の支払いを免れてきた可能性があると報道されたのです。さらに、「有名人になれば女性は何でもさせてくれる」と猥褻な発言をしていたビデオまで流出したのです。同候補は「有名人のパワー」を利用して、既婚女性にアプローチをかけていたのです。
一方、クリントン候補は内部告発サイト「ウィキリークス」によって、ウォール街との密着及び自由貿易体制の推進を証明する非公開の演説内容を暴露されたのです。周知の通り、現在同候補は環太平洋経済連携協定(TPP)に反対しています。
第2回目のテレビ討論会では、特にトランプ候補の女性蔑視の発言に対する対応に注目が集まりました。討論会で同候補は、まず硬い表情で自身の発言は更衣室で行われる程度のものだと述べ、ダメージを小さくする戦略に出たのです。次に、過激派組織「イスラム国」に焦点を当てて、争点をすり替えました。それに気づいた司会者が、再度女性を見下す発言について質問をすると、今度はビル・クリントン元大統領の不倫問題を取りあげ、「女性を虐待した」と主張したのです。
さらに、同候補はクリントン候補が元大統領の犠牲になった女性を激しく攻撃したと非難し始めたのです。トランプ候補は、自身の猥褻な発言と元大統領の不倫問題及び不倫相手の女性に対するクリントン候補の対応を「ブレンド」する戦略をとったのです。
討論会の会場では拍手やブーイングなどは禁じられているのにもかかわらず、トランプ候補の答弁が終わると有権者から同候補に同意する拍手が沸き起こったのです。ビデオ流出により致命的な痛手を受けたのにもかかわらず、結局、同候補はブレンド戦略により第2回目のテレビ討論会を切り抜けたのです。
今回の米大統領選挙の投票日は11月8日です。11月に入ってから1週間の選挙期間があります。次々に起こるオクトーバーサプライズに対して両候補がどのように対処して、ダメージを最小限に抑えることができるかが鍵になります。