非言語コミュニケーション戦略
非言語コミュニケーションには、表情、動作、声のトーン並びにスピード、沈黙、空間の使い方、アイコンタクト(視線の一致)などが含まれています。第2回目のテレビ討論会ではクリントン・トランプ両候補の空間の使い方が対照的でした。空間の使い方は非言語コミュニケーションの近接学に属し、相手と会話をする距離が問題になります。
クリントン候補からみていきましょう。同候補は椅子から降りて質問をする有権者に近づき、物理的距離のみならず心理的距離も縮め、アイコンタクトを行って回答していました。有権者が候補者に対して親近感を抱く効果があるのです。スペースを活用した同候補のスタイルは、1992年米大統領選挙で今回と同じように対話集会の形式をとったテレビ討論会で見せたクリントンアーカンソー州知事(当時)のそれと類似しています。
一方、トランプ候補は、どちらかと言えば質問をする有権者よりもクリントン候補との距離を意識していました。同候補が有権者の質問に回答している間、トランプ候補は両手で椅子を抑えたり、舞台をゆっくり歩いていました。クリントン候補に急接近して過度にプレッシャーをかけてしまうと「ジェンダーの地雷」を踏み、女性有権者から非難される危険があるからです。ただ、トランプ候補はクリントン候補の意見に反対し介入する場面では、同候補との距離を縮めていました。同候補に接近して後方に立ち威嚇しているように観察できる場面もあり、その点においてはトランプ候補も意図的に空間を使っていたと言えるでしょう。
トランプ候補は、テレビ討論会後に開いたフロリダ州での集会で「ヒラリーが自分の前を通ってスペースを犯した。私は動いていない」と主張したのです。そのうえで、トランプ候補がクリントン候補のスペースに侵入したとする同候補とメディアを「嘘つきだ」と批判しています。