パスレボの建山雄旗取締役は「高くても買いたい、直前でも買いたい、といったニーズに答えるシステムをつくるのがゴール。米国のチケットマスターのようなシステムはお手本になる」と語る。
チケットマスターは米興行チケットの再販を手がける大手サイトだ。10年に世界最大の興行会社である米ライブ・ネーションに吸収合併された。チケットマスターのサイト上では、各ライブチケットの席配置と価格、それが主催者による販売か転売かが公開されており、好きな席を選んで購入できる。
「主催者が転売されているチケットの価格も把握して、ライブの価格設定に生かしている。転売サイトの運営で得た利益はアーティストにも還元している」(元エイベックス・インターナショナル・ホールディングス社長の北谷賢司氏)。需要に応じて価格設定を行うシステムが構築されている。
前出の大竹教授は日本特有の価格差をつけにくい文化を理解した上で、「価格差をつけて、それで得た利益は学生割引の席を作ることに使う、など利用目的を明示して使えばよいのではないか」と提案する。
意見広告に対する予想外の反響に、音楽業界にも変化の兆しが見える。4つの音楽関係団体は9月11日に第2弾の意見広告を出した。そのプレスリリースで「大手企業組織によるチケット転売産業化の動きは、我々が見落としていたユーザーニーズが存在していたことを真摯に受け止める機会ともなった」と記載し、当初の転売サイトへの全面対決姿勢は弱めた。
慶應義塾大学政策・メディア研究科の特別招聘教授で、ぴあの非常勤取締役も務める夏野剛氏は「ITによって主催者が自ら柔軟に価格設定をする時機がきた。転売サイトを排除するためにファンに対して厳格な本人確認を求めるなど、主催者にとってもファンにとっても不幸せな方向性には進んで欲しくない」と語る。
排除すべきは悪質な転売屋だ。チケットキャンプの奥田匡彦執行役員は「転売サイトだけの対策では悪質な転売を排除しきれない。最初にチケットを販売する音楽業界と課題解決に取り組みたい」と語る。
「音楽の未来を奪う」のは、転売サイトだろうか。「結局は高齢の各マネジメント事務所のトップがITに対する理解がないことが一番の問題」(業界関係者)。ITの波が押し寄せているのはどの業界も同じだ。音楽業界はファンのアーティストへの好意に安住してきたのではないか。彼らには、ITを活用してファンのニーズを汲み取り、新たなファンを開拓していけるような変革が求められている。
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