2024年11月22日(金)

Wedge REPORT

2016年10月21日

変化してこなかったチケット販売システム

 そもそも音楽業界と転売サイトの攻防がなぜ生まれたのか。「この30年間、チケット販売のシステムには変化がない。配給制をしく管理経済のようだ」と転売サイト「チケットストリート」(東京都品川区)の西山圭社長は語る。航空券の販売などではユーザーが自ら席を指定し、予約、購入、キャンセルを行えるのがごく一般的だ。しかし、日本のライブチケットは全席が同価格で、席の位置は当日会場に行かないと分からないことが多い。ライブ開催日直前の購入やキャンセル、再販売にも多くは対応していない。

 埋もれていたファンのニーズを取り込んだのが転売サイトだ。転売サイトの市場規模は年間500億円に達している(フンザ調べ)。

 ある音楽業界の関係者は次のように本音を吐露する。「主催者がファンにチケットを売る段階で席の位置を開示して価格差をつければ、価値を認めてくれているファンが自然と良い席のチケットを手にできる。同時に、ライブの収益を上げやすくなると感じている関係者は少なくない」。

 しかし、アーティストやプロモーターなどが席に価格差をつけることは少ない。取材すると業界関係者は口を揃えて、「音楽業界ではファンはみな平等、チケットへの投資額では優劣は判断しないという文化がある」「他のアーティストに先がけて価格差をつけ、ファンの好感度が下がることをおそれている」と話す。

 長らくCD・レコード販売が中心だった音楽業界で、ライブはファンサービスという位置づけだった。しかし、CD販売と有料音楽配信の売り上げは減少傾向にあり、音楽業界にとってライブは重要な収益源だ。

ライブには多くの関係者がかかわる(出所:取材をもとにウェッジ作成)
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 日本音楽制作者連盟の元理事で音楽プロデューサーの山口哲一氏は別の課題も指摘する。「JASRAC(日本音楽著作権協会)によるライブでの演奏にかかる著作権使用料の計算式にも問題がある」。JASRACの使用料規程によると、例えば主催者がステージ前10席のチケット価格を10万円とし、残りの席を1万円として販売すると、JASRACが著作権使用料を算定する基準となる入場料の平均は、5万5000円となる。席の数で加重平均した額が基準にはならないため、1席でも高価格の席を設定すると著作権使用料が上がる。そのため、ライブの主催者は、弾力的な価格設定をしにくい。

 JASRACの大橋健三常務理事はこの点について「著作権使用料規程を改正するつもりは今のところないが、算定する入場料はあくまで上限。ライブの席数に応じて運用で調整することはありうる」と語る。

 先んじて動き出したのがエイベックス・ライブ・クリエイティブとヤフーだ。両社は5月に合弁事業会社「パスレボ」(東京都千代田区)を設立、年内に公式再販売システムを構築する。


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