2024年4月19日(金)

AIはシンギュラリティの夢を見るか?

2016年11月9日

AI (人工知能)x IA(知能増幅)

 現在のパソコンやスマートフォンの操作は、画面に表示されるメニューやボタンなどで構成されるGUI(グラフィカル・ユーザー・インターフェース)を、ユーザーがマウスやタッチパネルを使って操作する「直接操作」が主流になっている。

 ソフトウェアエージェントと「直接操作」の関係は、コンピュータの黎明期からシリコンバレーで対立してきたAI(人工知能)とHCI(ヒューマン・コンピュータ・インタラクション)の2つのグループの関係を象徴している。 AIのグループはコンピュータを人間の知能を置き換えるものに進化させようとするのに対し、HCIのグループは人間の能力を補完し知的活動を支援するもの(IA: Intelligence Amplification=知能増幅、またはIntelligence Augmentation=知能強化)であるべきと主張している。

 1990年代にアップルのMacintoshやマイクロソフトのWindowsが登場して以降、HCIのグループが提唱する「人間中心デザイン」と呼ばれる考え方の成果物としての「直接操作」が、コンピュータの操作の支配的なスタイルとなってきた。しかし、パソコンやスマートフォンで利用できるアプリやサービスは年々増加し、それらのGUIのデザインや操作方法は、流行や、デザイナーのスキルや考え方によって多様化し、タッチパネルでできる操作も増えて複雑化している。

 アクティビティを実行するためには、タスクごとにアプリを起動したり、ブラウザでWebサイトにアクセスしたりすることが必要で、ユーザーはアプリやWebサイトごとの操作を理解して使いこなさなければならない。「直接操作」は個々のタスクのユーザー体験(サービスを利用する過程でユーザーが感じる体験)を局所的に快適にすることはできるが、複数のアプリやWebサイトを跨ったアクティビティのユーザー体験をより良いものにするには別の取り組みが必要になる。

 ソフトウェアエージェントは自己完結的であり、サードパーティのアプリやWebサイトごとのユーザーインターフェースをユーザーから完全に隠蔽することによって、アクティビティのユーザー体験をシームレスで快適なものにすることができる。そして、利用を続けるうちにソフトウェアエージェントはユーザーを理解し、自然と賢くなる。これは、これまでの事前設計によるソフトウェアでは不可能だったことだ。

 レストランを予約するなどのアクティビティを、音声で対話するだけで完了させることができるソフトウェアエージェントの新しいユーザー体験が、「直接操作」に取って代わる可能性は大きい。人前でコンピュータに話しかけるのが憚られる時には、Facebook MessengerやグーグルのAlloのようなメッセンジャーアプリで、テキストでソフトウェアエージェントと対話すればよい。

 米国のデザインコンサルティング会社IDEOの共同創業者デビッド・ケリーは、かつて「十分な試行錯誤は、完璧な知性を上回る」と言った。「人間中心デザイン」を実践するIDEOは、製品のアイデアをすぐにプロトタイプにして、それをユーザーに実際に使ってもらい、そこから学習することによって改良を繰り返すことを信条にしている。しかし、知性(AI)も学習して進化するようになった。その学習は量と質とスピードで、人間(デザイナー)の学習を遥かに上回るだろう。

 クリエイター人材を育成するデジタルハリウッド大学の杉山知之学長は「これまで対立関係にあったAIとIAの境界が、技術革新によって曖昧になった。今後は、AIとIAとを掛け算するような企業活動が必要になる」という。


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