供給網の見える化で代替生産につなげる
同じく熊本で被災したアイシン精機。工場内の運搬用大型クレーンが落下してプレス機の上に倒れたり、金型ラックから金型が落下して一部は壁を突き破ったりと甚大な被害を受けた。そのため工場の外での生産に移らざるを得ない状況になった。
熊本で生産していたのは、自動車のドアの開閉を制御する「ドアチェック」。生産した製品の多くをトヨタ自動車に納入している。熊本地震後、アイシンの工場が操業停止したことによって、トヨタは国内工場のほぼすべてのラインを止めることになった。しかし、被災して1週間後には九州地区で7カ所、愛知県内にも7カ所にサテライト工場を臨時で作るという初動対応ができた。これには理由がある。
東日本大震災や阪神・淡路大震災での教訓を活かして「1次サプライヤーである当社からみて2~5次下請けまで把握できるようにサプライチェーン(供給網)の見える化を行っている」(岡部均副社長)からだ。このシステムの意図は品質や在庫を確認するためのものだ。
ところが、災害が起こった際にもこれが力を発揮した。サプライチェーンの把握と同時に、その取引先と日頃から顔の見える関係を築いていたことで、復旧支援に加えて、代替生産拠点として使えそうな空きスペースのある工場を紹介してくれたのだった。
「事前に協定や計画があったわけではないが、工場同士のコミュニケーションは円滑に進んだ」(同)。
日頃の業務改善、品質改善を通じた会社間の連携の強さこそ、有事に事業継続するために不可欠な要素だといえる。
熊本の震災による復旧では、ソニーのほうがより時間がかかった。これはクリーンルームなど特殊な環境が必要な半導体生産のためである。両者に共通するのは、「代替案」を持つことだ。自社の工場が被災し、操業ができなくなった際に、その状況をどのような手段で乗り切り、供給責任を果たしていくのかということである。
ただ、代替といっても、生産拠点が変わってしまえば、「このまま、拠点を移管してしまうのでは?」と、従業員の不安を呼ぶことになる。そのため、アイシンでは、本震から約1週間後の4月22日には雇用不安を抱えていた熊本の現地従業員向けに「8月末を目処に、必ず熊本を復興させる」と決起集会を開き、状況を丁寧に説明するという配慮も行ったという。