代替生産不可能なら自社の体制を強化する
一方、同業他社での代替生産が難しい商品を扱う場合はどのような対策が取れるのだろうか。
徳島県鳴門市の大塚製薬工場は、点滴用輸液で国内シェアの5割以上を占める。そもそもこの輸液を扱う企業は日本で8社程しかない。製品が供給できないとなれば患者の生命に直結するので社会的責任は大きい。また、医薬品は許認可制であり、急遽別の工場に代替生産を依頼するといった手段をとることができない。自社の別工場での代替生産は可能であるが、生産量を確保するためにも被災工場を早く復旧させるしかない。
大塚製薬工場では、東日本大震災以後、南海トラフ地震が起こることを想定して対策を本格化させた。主力工場である松茂工場は沿岸部にあるが、輸液を安定供給するための策として敷地の周囲に高さ2メートル、全長1620メートルにわたる津波対策の外周防潮堤を設置。海から約1キロ内陸の鳴門工場でも3つの生産棟の周りに防潮堤を建設するほか、ボイラー、電気系統など重要設備には防潮扉を整備した。
BCPの担当責任者である総務部BCM委員会事務局長の喜田哲也氏は「供給が止まればまさに患者さんの命に関わる。高い投資ではあるが、『安定供給』という付加価値を得ることによって営業の武器ともなるし、取引先からの信頼も得ることができる」と語る。
リスク対策を検討し直すことで設備の省力化にもつながった。それまで一工場単位でしか設備投資の計画をしておらず、部分最適になってしまった電気設備や配管設備などを、喜田氏をはじめとしたBCM委員会を通すことで全体最適を実現することができた。
「全体の最適化を図る機会もあまりなかったため、良い機会になった。リスク対策がまさに『投資』として機能している」(同)。
どのように社員に意識付けるか
BCPを策定していても、有事の際に実際に動くのは個々の社員である。社員一人ひとりに、初動対応の意識付けを行うためには何が必要なのか。
豊田通商では、東日本大震災と同じ年にタイを襲った大洪水によって、立て続けにサプライチェーンが影響を受けたことなどから、海外拠点を含め、グループ全体でBCPを推進した。「全世界にあるグループのBCPを2年以内に構築する」という目標を経営トップが掲げ、BCP推進室を2012年4月に設置した。