前向きに読み解く経済の裏側

2016年12月12日

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塚崎公義 (つかさき きみよし)

経済評論家

1981年 東京大学法学部卒、日本興業銀行(現みずほ銀行)入行。主に経済調査関連の業務に従事。2005年 銀行を退職して久留米大学へ。現職は久留米大学商学部教授であるが、当サイトへの寄稿は一個人として行うものであるため、肩書きは「経済評論家」とする。

 余談になりますが、高度成長期の日本製品は、今の中国製品と同様、低品質低価格で輸出されていましたから、円高になると輸出が激減すると言われていました。実際、ニクソンショック後の円切り上げの際などには、輸出は大打撃を被りました。国内景気が悪化したことで、赤字覚悟の輸出が増えたため、輸出数量全体としてみれば減少こそ免れましたが、それまでの輸出数量の伸びが止まってしまったわけです。

 そうした記憶から、プラザ合意(1985年)後の円高局面でも、日本の輸出が激減すると懸念されていました。しかし、そうはなりませんでした。高度成長期からプラザ合意までの間に日本製品の品質が向上していたため、「高くても日本製品を買いたい」と考える人々が世界中で増えており、円高によってドル建て輸出価格が値上がりしても、日本製品は世界中で良く売れたのです。

 プラザ合意当時の時の経験からしても、米国の輸入関税が日本の輸出を壊滅させることはなさそうだ、と考えて良いでしょう。米国内に日本製品のフアンが大勢いて、関税を払っても日本製品を買ってくれるはずだからです。

日本へのメリットも

 米国の景気が良いことは、日本の輸出にとって大きな恩恵があります。米国の消費者が豊かになって贅沢をすると、多くの物を買うようになりますから、輸入が増えます。しかも、低価格低品質の途上国製品から高価格高品質の日本製品に需要がシフトします。加えて、米国が景気拡大を受けて利上げをすると日米金利差が拡大してドル高円安になります。これも日本の輸出にとってプラスです。

 こうした効果が、対日輸入関税の効果を完全に相殺してくれるとは思われませんが、トランプ氏のその他の政策(大規模な公共投資等)の効果も併せて考えれば、日本の輸出が減るとは限らないでしょう。

 日本の株価には、さらに大きなプラスになるかも知れません。日本の株価は、米国の株価の影響を大きく受けます。「原油価格が上昇すると米国の株価が上がり、つられて日本の株価が上がる」という大変奇妙なことが起きるのが株式市場という所です。原油を全量輸入している日本経済にとって、原油価格上昇が株高の要因となる事は、全く奇妙としか言いようが無いにもかかわらず、です。

 そうした中で、米国の景気が拡大し、米国の企業業績が好調に推移すれば、米国の株価が上昇し、つられて日本の株価が上昇する可能性も大きいでしょう。

 今一つ、日本株にとってはドル高円安がプラスに働く、という点も重要です。日本は輸出入が概ね同額ですから、ドル高で輸出企業が潤う金額と輸入企業が被る支払増は概ね同額です。しかし、輸出企業が潤った分がそのまま輸出企業の利益を押し上げる一方で、輸入企業の仕入れ値の値上がりは、製品価格の値上げという形で非上場中小企業や一般消費者などに転嫁される部分も多いので、上場企業の収益に与えるマイナスは、輸出企業の利益増に比べて小さいのです。

 こうしたことも考えると、トランプ氏の当選によって日本の株価が上昇したことも、説明が可能なのかもしれません。

 もちろん、トランプ氏の経済政策の全容が見えて来ないと本当の所はわかりませんし、トランプ氏の外交戦略によっては世界の平和が脅かされて世界同時株安になったりするリスクもあります。

 筆者としては、到底強気に株を買おうという気にはなりませんが、米国の保護主義という点だけに絞って日本株への影響を考えれば、悪くなさそうだ、と言えるかのしれませんね。

  
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