前向きに読み解く経済の裏側

2016年12月12日

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塚崎公義 (つかさき きみよし)

経済評論家

1981年 東京大学法学部卒、日本興業銀行(現みずほ銀行)入行。主に経済調査関連の業務に従事。2005年 銀行を退職して久留米大学へ。現職は久留米大学商学部教授であるが、当サイトへの寄稿は一個人として行うものであるため、肩書きは「経済評論家」とする。

 「米国が苦手とする洋服を作るために貴重な労働力を使うのはもったいない。もっと米国が得意なものに労働力を使うべき」と言うのが経済学的な正論なのでしょうが、それは米国に失業者がいない場合にのみ成り立つ議論でしょう。失業者がいるならば、得意な産業は失業者を雇えば良いからです。

 失業者がいない場合であっても、米国洋服メーカーの生産が増えることは、良い面もあります。労働力不足は、賃金水準を押し上げて全米の企業に合理化・省力化投資を促すため、米国の企業の生産性が向上していくことに繋がるからです。労働力不足は、米国経済の生産性を上昇させる原動力となるのです。

 中国製洋服の輸入制限が米国の洋服メーカーを甘やかすことになり、長い目で見ると米国の成長力を鈍化させる、という論者もいるようですが、中国製洋服の輸入制限に伴って多数の米国洋服メーカーが増産に走り、米国メーカー各社の競争が繰り広げられれば、やはりサボっている企業は淘汰されることになるので、米国の中長期的な成長力が鈍化することにはならないでしょう。

 米国が輸入を制限すると、海外に進出している米国企業が困る、という論者もいるようですが、それは違います。米国の自動車メーカーがメキシコの子会社で自動車を生産して米国に輸入していますが、メキシコの子会社はメキシコの会社であって、米国の会社ではありません。従って、メキシコからの輸入が止まったとしても、困るのはメキシコ人労働者であって、米国ではありません。米国の損失は、メキシコの子会社からの配当が減ることくらいです。一方で、米国にある親会社の工場の利益は大幅に増大しますし、米国内の失業者が仕事にありつけるわけですから、差し引きした米国のメリットは大きいはずです。

日本への打撃は限定的

 米国の保護貿易は、世界全体としてマイナス効果が生じることは疑いありません。そうした中で、米国がメリットを受けるとすれば、米国以外が被るデメリットは比較的大きなものとなりかねません。しかしそれでも、日本のデメリットはそれほど大きくないかもしれません。

 日本はすでに、日米貿易摩擦に長い間悩まされ続けて来たため、米国の保護主義に対する抵抗力がついています。たとえば自動車産業は米国内に多数の工場を持ち、現地生産をしているわけです。中国やメキシコのように、米国の保護主義の洗礼を今まであまり受けて来なかった国が受けるインパクトとは桁が違うはずです。

 日本製品は、値段は高いけれども品質が良いという理由で世界中で人気があります。従って、関税が引き上げられても、一定のファン層からの需要は残るでしょう。中国製品が価格の安さで売っているがゆえに関税が引き上げられると対米輸出が激減するのとは、事情が違うのです。

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