「中華民族」という摩訶不思議な言葉
最後にもうひとつ触れておきたいのは、「中国はアヘン戦争という屈辱の歴史があるので麻薬に厳しい」という話である。このことをコメントした在日中国人の大学教授は、「麻薬は『中華民族』を滅亡させる危険があるもの」と述べていた。
「中華民族」――現在、56の民族が住む「多民族国家」を自称する中国では、全民族を総称してこう呼ぶ。この名称の使い始めは、中華民国時代のようだが、中国共産党政府はこの名称が大のお気に入りだ。
うっかり聞き流しがちだが、ちょっと考えればこれは実に不思議な名称である。たとえば、多民族国家アメリカに、「アメリカ国民」はいるが、「アメリカ民族」はいない。
「中国国民」というならいざ知らず、「中華民族」という言葉で、人種的にも異なるウイグル人までをくるんでしまうのは、中国共産党政府の特異な用語のなせる業である。
日本のメディアの中国報道をよく見ていると、日本の人心を巧妙にからめ取ろうとする力が、内と外から働いているのではないか、という気持ちにさせられるのだ。
※次回の更新は、4月14日(水)を予定しております。
◆本連載について
めまぐるしい変貌を遂げる中国。日々さまざまなニュースが飛び込んできますが、そのニュースをどう捉え、どう見ておくべきかを、新進気鋭のジャーナリスト や研究者がリアルタイムで提示します。政治・経済・軍事・社会問題・文化などあらゆる視点から、リレー形式で展開する中国時評です。
◆執筆者
富坂聰氏、石平氏、有本香氏(以上3名はジャーナリスト)
城山英巳氏(時事通信社外信部記者)、平野聡氏(東京大学准教授)
◆更新 : 毎週水曜
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