2022年12月8日(木)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2016年12月23日

»著者プロフィール
著者
閉じる

西本紫乃 (にしもと・しの)

北海道大学大学院公共政策学連携研究部付属公共政策学研究センター研究員

1972年広島県生まれ、広島大学大学院博士後期課程単位満了退学、元外務省専門調査員(在中国日本国大使館)。著書『モノ言う中国人』(集英社新書、2011年)。

 一年ぶりの北京で見たいくつかの変化から、中国の今の国家と国民の関係の微妙な変化をうかがうことができる。中国政府にとって国民の支持を得つづけること、中国共産党にとって民心を引きつけておくこと、これが今日、より重要になってきているのだろう。

「海外の敵対勢力」とは何か?

 12月初旬、教育部の陳宝生部長(大臣に相当)が共産党の機関誌『紫光閣』に教育機関におけるイデオロギーの徹底強化に関する記事を発表した。教育機関のイデオロギーを徹底することで体制の維持を強固にするとともに、次世代を担う若者に対して正しい思想教育をしなければならない、という趣旨の文章である。この陳宝生部長の文章で注目すべきは、「敵対勢力」の中国への攻勢を防ぐ必要があると述べている点である。「敵対勢力」が中国に侵入するときは、まず教育システムに入り込み学校を乱すのだという。「敵対勢力」が具体的に何を指すのか明確ではないが、国外からの脅威というより、おそらく内なる敵を指しているのだと思われる。つまり、中国国内の西洋の哲学や価値観を教える教員や体制批判的な意見をもつ人を「敵対勢力」と見ているのだ。中国国内の有識者はこの文章を、教育機関内部の体制に従順でない人たちを排除するための、クリーンアップキャンペーンの開始宣言だと見ている。

 また、このほかにも今年11月に国民教育促進法の修正案が可決され、2017年9月以降、私立の小中学校の設立が出来なくなる。教育機関のイデオロギーによる囲い込みはこの先もさらに強化されていく見通しだ。

 イデオロギーの引き締めは、反腐敗キャンペーンと並び、習近平政権の重要な政策方針の一つである。このため、教育やメディア、情報といったいわゆる「文化」領域を担当する政府機関の政治的な期待とプレッシャーは大きくなっている。教育部の陳宝生部長は今年7月に前任の袁貴仁部長が突然更迭されたのにともない、教育部の部長に昇格した。陳宝生部長は2008年に中央党校の副校長に就任したが、その時期、習近平主席が中央党校の校長も兼務していた。当時、陳宝生部長は習近平主席に対して直接アドバイスをしたことなどから習近平主席の個人的な信頼を得て、教育部部長に取り立てられたともいわれている。つまり、親分と子分のクライエンテリズム的人間関係がこの人事のベースにある。

 同様のことは、今年6月の国家インターネット情報弁公室のトップだった魯煒主任の更迭についても言われている。魯煒主任の更迭は、今年3月に新疆のインターネットサイト「無界網」に掲載された習近平主席の退任を求める「公開状」の管理者としての問われたことなどが要因として指摘されているが、このほかに、彼が習近平主席との個人的なつながりがなかったことが習近平主席の信任を得られなかったことも更迭の原因の一つだともされる。国家インターネット情報弁公室主任の後任には、同弁公室の徐麟副主任が昇格した。徐麟主任は習近平主席の上海時代の部下である。国家インターネット情報弁公室はインターネット全般を管理する中央機関として習近平主席の関心と期待が非常に高いが、それだけに、気心の知れた子分に任せたいというのが、習近平主席の思惑のようだ。

新着記事

»もっと見る