スティーブン・キング作品にポケモン
グリシャムだけではない。2016年のアメリカの娯楽小説の新作ベストセラーを振り返ると、巨匠たちの活躍が目立った。かつては「ホラー小説の王様」(キング・オブ・ホラー)と呼ばれたスティーヴン・キング(Stephen King)も健在だ。今年夏に出した新作END OF WATCHもベストセラーリストの首位を獲得した。ホラーというジャンルにとどまらない活躍を続けるキングだが、この新作は元刑事のビル・ホッジスを主人公とする本格ミステリー三部作の最終作だ。定年退職したホッジスが友人たちと力を合わせ、時には現役時代の刑事仲間から情報をもらいながら、殺人鬼を追い詰めていく。
この三部作の第一作が、今年ようやく日本でも翻訳出版された『ミスター・メルセデス』(文芸春秋)だ。この作品は、国内で出版した海外ミステリーの2016年の年間人気ランキング(某社主催)で3位に入るなど話題となった。続編の翻訳を待ち望む読者が多いはずだ。実は、アメリカではすでに最終巻が出てベストセラーとなった。英語の原書を日ごろ読んでいてうれしいのは、こうしたシチュエーションに出くわすときだ。日本ではようやく出版が始まったばかりのシリーズ作の結末を、すでに知っているのだ。と、評者は自己満足にひたっている。
やはり、ミステリー作品なのでネタバレとなることは避けたい。ここでは、大作家キングの作品でなんと、日本発の今や世界ブランドであるポケモンについて言及があることをご紹介したい。次の一節だ。
At least one episode of the Pokémon cartoon series had been banned outright when thousands of kids complained of headaches, blurred vision, nausea, and seizures. The culprit was believed to be a sequence in the episode where a series of missiles were set off, causing a strobe effect.
「ポケモンのアニメシリーズのエピソードの少なくとも1話は、何千人のこどもたちが頭痛や視覚障害、吐き気、発作などを訴えた直後に、放送が中止となった。原因はそのエピソードの回で、ミサイルが次々と打ち上げられるシーンがあり、ストロボ効果を起こしたためと考えられている」
中年の読者であればご記憶だと思う。1990年代後半にテレビでポケモンのアニメをみていた子どもたちが次々と、体調不良を訴えた騒動だ。光が短時間で明滅するシーンをみて気分を悪くした子供が続出した。ベストセラー作品とは基本的に万人が読んで理解できる内容のものが多い。特に、断りなしにポケモンの名前が出てきて、しかもテレビアニメ放映時のトラブルが小説のなかで話題になるあたり、ポケモンというブランドの世界レベルでの浸透ぶりをうかがわせて興味深い一節だ。