■今回の一冊■
Between the World and Me
筆者 Ta-Nehisi Coates
出版社 Spiegel & Grau
当然のように黒人が警官に射殺されるアメリカ社会の欺瞞を告発する書だ。黒人のジャーナリストが自身の15歳の息子に語りかけるスタイルで書き上げた。黒人に生まれた以上、些細なことで警官に殺されるリスクがあるから気をつけるよう、息子に切々と訴える内容だ。黒人奴隷を酷使して経済的な繁栄の基礎を築いてきたアメリカでは、アメリカン・ドリームなど幻想だと戒める。
黒人を虐げてきたアメリカの歴史に対する怨嗟、消えてなくならない黒人差別から目を背けるアメリカ社会に対する怒りに満ちた書だ。将来に甘い希望を持つことなく、自分の身を守るよう息子を教え諭す。息子にあてた手紙というスタイルを貫いており、現実との妥協や打開策を模索する姿勢をまったくみせない。
「奴隷であった期間の方が、
自由の身になってからの時間よりも長い」
人種差別というアメリカ社会の闇が浮き上がるだけで、まったく救いのない本だ。しかし、50週以上つまり1年以上にわたり、ニューヨーク・タイムスのベストセラーリスト(ノンフィクション単行本部門)にランクインを続ける超ベストセラーだ。
本書の主張は次の一文に集約されるだろう。
In America, it is traditional to destroy the black body―it is heritage.
「アメリカでは昔から黒人の体を破壊する伝統が続いている―これは定めなのだ」
この夏も、アメリカでは丸腰の黒人青年が警官に射殺される事件がいくつか起きた。本書の主張にならえば、アメリカは昔から黒人を殺し続けているし、これからも同じことが続くということだろう。筆者はだからこそ、自分の息子に気をつけろと次のように警告を発する。