先日、ご近所に住むジェニファーに久しぶりに顔を合わせた。
おそらく70代半ばの彼女はこのところリューマチがひどく、歩行補助機が手放せなくなって外出もままならないのだろう。
開口一番に、私にこう聞いてきた。
「どう、最近? バレエ見てる?」
「いやあ、もう見たいダンサーがあまりいなくて。話題と言えばミスティだけど、踊りは相変わらずいただけない。でも彼女をけなしたら、racist(人種差別主義者)と言われるからねえ」
「あっはっは。内輪ではみんなけなしてるわよ」
体は弱っても、あっけらかんとした性格は変わっていない。ジェニファーは高らかな笑い声を残してゆっくり去っていった。
メトロポリタン歌劇場で上演された「白鳥の湖」(筆者撮影)
このジェニファーとは、実はかつてニューヨークタイムズ紙でダンス批評を書いていたジェニファー・ダニングである。
80年代から90年代にかけて、アナ・キセルゴフと並んでニューヨークのダンス評論家として名を這わせ、バレエ関係者なら知らないものはいなかった。
ダンサーを見守る目は優しく、あまり辛らつなことは書かなかったけれど、視点のはっきりした腕利きのライターだった。