ベストセラーで読むアメリカ

2016年12月27日

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 スティーブン・キングを巡っては、もっと恐ろしい現象も起きている。キングの実の息子であるホラー作家、ジョー・ヒル(Joe Hill)が2016年5月に出した新作 THE FIREMANもベストセラーリストにランクインしたのだ。体が燃えて死んでしまう謎の伝染病が広がる世界を描く小説だ。しかも、物語の設定が、父キングの初期の作品 THE STANDに似ている点も怖い。親子そろってベストセラー作家とはすごい。しかも、文章の冗漫な書きぶりも遺伝なのだろうか。日本でもホラー短編集『20世紀の幽霊たち』(小学館文庫)などの翻訳が出版されている。

「富士フイルムはたいてい、
かなりいい状態で長持ちする」

 さて、次は、ロサンゼルス市警の刑事で一匹オオカミのハリー・ボッシュを主人公としたハードボイルドのシリーズ作にも触れておきたい。マイクル・コナリー(Michael Connelly)が手掛けるこのシリーズはすでに20作を超え、日本でも何作か翻訳が出ている。最新作THE WRONG SIDE OF GOODBYEはこの秋に発売され、ベストセラーリストにランクインした。1月1日付のNYタイムズのランキングでは11位と順位を落としているが、7週連続でランクインだ。

 ロス市警を退職した主人公のボッシュは私立探偵として働いており、ある高齢の富豪から人探しを頼まれる。50年近く前に出会った女性と、その女性と自分との間にできた子供の行方を探してほしいという依頼だった。単純な人探しではない。遺産相続も絡んでくるのだ。息の長いシリーズ作だが、どの作品をとってもハズレがほとんどない作家だ。複数の事件が絡み、先の読めない展開にいつもハラハラドキドキする。

 今回の作品では、人探しをするなかで、古い写真のネガが重要な役割を果たす。調査の過程で主人公ボッシュは、屋根裏に50年近く放置されていたネガフィルムを手に入れる。そこには謎の女性が写っているのがかすかに認められた。ボッシュは傷んだネガからなんとか写真をプリントできないかと、知り合いの専門家にネガを渡す。すると、その専門家とのあいだで次のような会話をする。

 "Yeah, you have some cupping here. Some cracking. It's Fuji film."
 "Meaning What?"
 "It usually holds up pretty well. Who is she?"

 「たしかに、ここのところはいくらか反っていますね。ひび割れもある。でも、これは富士フイルムですね」
 「どういう意味?」
 「富士フイルムはたいてい、かなりいい状態で長持ちするってことですよ。この女性はだれなんだ?」

 アメリカのベストセラー小説を読んでいて、日本企業の製品に関する言及が出てくると、評者は思わずにんまりしてしまう。電子カメラやスマートフォンの普及で、身近に写真のフィルムをみることはほとんどなくなった。それでも、日本企業の製品への信頼を示すエピソードはやはりうれしい。

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