2024年11月22日(金)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2010年4月14日

 鳩山由紀夫首相も6日の赤野への死刑執行後、「日中関係にいろんな亀裂が入らないように努力する」と言い、死刑囚の「人権」より「日中関係」を優先させる考えを示した。

 日本側が期待していた「ギョーザ事件容疑者拘束」3日後の死刑執行通告に対し、日本の外務当局者の間でも「中国側はタイミングを図っている」との分析が多い。5月1日開幕の上海万博や同月末に予定される温家宝首相の訪日を控え、日中の「安定空白期」を狙い、一気に懸案を解決しておこうとの政治的判断があった。

中国に物言えぬ日本と国際社会

 前述したが、小泉首相時代の靖国問題で日中関係が悪化した際、中国政府は日本人死刑問題を躊躇した。しかし日中関係が改善され、中国重視を掲げる民主党政権なら少し強硬な手を打っても、両国関係の大局に影響を及ぼさないと判断したのだ。

 さらに中国国民の間には複雑な「大国意識」が台頭している。

 中国人が「麻薬」と言って思い浮かべるのは「アヘン戦争から抗日戦争にかけて受けた屈辱の近代史」(中国人知識人)だ。麻薬犯罪で英国人に続いて日本人に死刑を執行したのは歴史の偶然だろうが、ネット上には「『日本鬼子』を殺さないと、平民の恨みを晴らせない」(人民日報系『強国論壇』)との書き込みもあった。

 金融危機を克服してますます自信を強める中国。法治や人権などの普遍的価値を突っぱねる「異質」ぶりはますます際立っており、日本をはじめ国際社会はこの「大国」に物言えぬ現実がより一層鮮明となっているのだ。そして我々は、日中関係の変化の中で動いた日本人死刑囚問題の意味を考えねばならないだろう。

※次回の更新は、4月21日(水)を予定しております。

◆本連載について
めまぐるしい変貌を遂げる中国。日々さまざまなニュースが飛び込んできますが、そのニュースをどう捉え、どう見ておくべきかを、新進気鋭のジャーナリスト や研究者がリアルタイムで提示します。政治・経済・軍事・社会問題・文化などあらゆる視点から、リレー形式で展開する中国時評です。
◆執筆者
富坂聰氏、石平氏、有本香氏(以上3名はジャーナリスト)
城山英巳氏(時事通信社外信部記者)、平野聡氏(東京大学准教授)
◆更新 : 毎週水曜

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