2024年11月22日(金)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2010年4月14日

 中国の死刑執行数は国家機密のため公表されない。04年3月の全国人民代表大会(全人代)である代表が「毎年、約1万人の死刑囚の刑が執行されている」と述べ、波紋を広げたが、執行数は年間数千人に上ると推計されている。

 最高人民法院(最高裁)の肖揚院長(当時)は06年11月、こう指示した。

 「死刑適用は薄氷を踏むごとく戦々恐々と慎重の上にも慎重でなければならない」。そして同院は07年1月から、これまで地方の高級人民法院(高裁)に権限を与えていた従来の死刑制度を改め、刑執行を最高人民法院が一括して慎重に許可することを決定した。これは北京五輪に合わせて死刑執行数が減少することを意味した。

 実際に死刑執行数は07年上半期、猶予付き死刑判決が、確定後直ちに執行されるケースを初めて上回り、執行数も大幅に減少し、最近10年間で最低となった。移植医療現場でも死刑囚ドナーはほとんど消えた。

それでも「懲りない日本人」の存在

 しかし遼寧省高級人民法院は07年8月、武田輝夫と、武田に指示されて覚せい剤を運ぼうとして捕まった鵜飼博徳(4月9日に死刑執行)に対して執行猶予なしの死刑判決を下した一審を支持、二審制のため両被告に対する死刑が確定したのだ。森勝男に対する猶予なし死刑判決も同年10月に確定した。

 単なる運び屋の森や鵜飼への判決は筆者にとって意外だった。関係者によると、森自身も「執行されないのでは」と期待を膨らませた時期があったという。

 日本側当局者の間にも、五輪を前に国際社会や対日関係に配慮し、新たな死刑厳格適用方針に基づき、森らは「猶予付き死刑」に減刑されるのではないか、との憶測もあった。だが結論は、「中国で一審判決を覆すのは困難」(中国外交筋)な現実とともに、麻薬犯罪では外国人も例外ではないという厳しい姿勢を国内外に示す必要性が上回ったのだった。

 この厳しい判断に一定の影響を与えた可能性があるのが、「懲りない日本人」の存在だった。06年12月、朝鮮族や北朝鮮人も絡んだ大規模麻薬密輸組織の「主犯」として赤野光信(4月6日に死刑執行)を含めた日本人2人が覚せい剤2.5キロを日本に持ち出そうとして大連空港で拘束されたのだ。死刑判決を通じていくら警告しても、日本人による密輸事件が一向に止まない現実は中国としても重く受け止めざるを得なかった。

そして迎えた死刑執行 鳩山政権の反応見て一気に

 中国当局は09年12月、麻薬密輸罪で英国人に死刑を執行したのに続き、今年3月29日に赤野への死刑執行を、4月1日には森、武田、鵜飼3人への死刑執行をそれぞれ「7日後に行う」と相次いで日本政府に通告した。

 日中の外務省関係者はこう解説する。

 「死刑制度のない英国なら強く抗議できるが、中国同様に死刑を存置する日本政府はやはり『執行停止』まで言えない。中国側は、昨年7月に日本国内で(中国人6人を殺傷した)中国人への死刑が執行された事実を踏まえて今回の日本人への死刑執行を行ったのだろう」

 「中国の司法の問題だから、日本が『それはけしからん』と言う問題ではない」(平野博文官房長官)――。「中国はまず赤野1人の死刑執行を通告した際の民主党・鳩山政権の反応を見た。強烈な抗議がなかったから、さらに続けて森、武田ら3人への執行も通知した」(日中関係筋)のが真実に近いのではないか。


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