ヒューレットパッカードによる、パソコン・プリンター部門と法人向けソフト開発部門の切り分けや、アボットラボラトリーズによる既存薬製造部門と新薬開発部門の切り分けなど、アメリカ企業のスピンオフの事例は多い。時代や環境によって、元々同根だった事業の特性が劇的に変わってしまうことがある。その場合、スピンオフで切り出すことで、それぞれに対する適正なガバナンスを提供し、結果双方の企業価値が増大する。そのような機動的な再編がアメリカのIn-Inで発生しているのである。
スピンオフの少ない日系企業
我が国では、スピンオフに関する特別な税制が整備されておらず、日系企業がそのようなスキームで再編をする手立てがない。経産省は財務省に対してスピンオフ税制を盛り込んだ税制改正要望を出しており、日系企業の価値向上のために1日も早い法改正が望まれるところであるが、それまでは、日系企業の価値向上はもっぱら統合型のM&Aで実現していくしかない。
それを実践している最たる例がソフトバンクである。5月に異業種である半導体メーカーのARMを何と3兆円で買収し、その興奮も冷めやらぬ8月には、サウジアラビア政府と組んでハイテク企業に投資をする10兆円のファンドを立ち上げると発表し、とどめにトランプ氏を電撃訪問して10兆円のうちの5兆円をアメリカに振り向けて5万人の雇用を創出するとぶち上げた。「This is Masa! He is a great guy! 」とトランプ氏に言わしめ、その横で喜色満面で立つ孫社長の姿を驚愕の思いで見た人も多いはずだ。
振り返るに、米大統領選の開票当日、トランプ有利が報じられると日経平均は大幅に下落し、また円高も進んだ。しかし勝利が確定すると株価は上昇に転じ、2017年の相場を占う週刊誌には、2万5,000円まで株は上がるなどとトランプバブルを喧伝するものもある。やれやれ、申年らしく全く最後まで騒がしいことである。
2017年も多くのM&Aが発生するだろう。2016年の反省に立ち返り、思い込みや予断を排し、真の企業価値向上に資するアドバイスを提供していくことを心がけたい。
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