風の谷幼稚園 3歳から心を育てる

2010年4月22日

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野村 滋 (のむら・しげる)

株式会社コンテンツ・ファクトリー代表

情報誌会社勤務時代に取材で、創立間もない風の谷幼稚園と出会う。その後12年間、風の谷幼稚園の変遷を追い続けている。風の谷幼稚園の教育実践記『4歳の胸のうち』『5歳の誇り』を同社から出版。

「あんれぇ、くせえぞー」と私(先生)が口火を切ると、子どもたちも「誰か屁ぇこいたやつ・・・」と続きました。
「おめえか?」「おめえだろ」「おらじゃねえ」と、やりとりを楽しんで―。「ケンムンどんが出たぁー」のところまでやってみると、一気に気持ちが高揚したのか、「『島ひきおに』がいい」の声が圧倒的になりました。
玄貴くん(へえ六)、光敏くん、凛くん(ごんぎつね)、悠くん(泣いた赤おに)の4人以外は「島ひきおにとケンムン」に。
「ねえ、いい? 『島ひきおにとケンムン』やろう」と説得にかかる子どもたち。「うーん」と渋っている部分もありましたが、凛くん以外の3人は「わかった。いいよ」と了解。
凛くんは、どうしても「ごんぎつね」がいいという様子。「やりたかったんだよなぁ・・・」とつぶやきます。それだけ思い入れが深いのでしょう。ですが最後には、みんなの「お願い、やろう」の言葉に首を縦にふったのでした。
「『島ひきおに』がいいって言った人たちが言ってたみたいに、このお話は楽しいところだけじゃなくて、いろんな気持ちのところがあるよね。そういうところをいろいろやってみたらどうかな」と凛くんに声をかけると、納得したように「うん」と頷く凛くんでした。
「じゃあ、風2組の劇は、『島ひきおにとケンムン』に決まりね!」と言うと「やったあ」と子どもたち。
たくさんの思いを込めながら、劇を作っていきたいと思っています。
風2組 学級通信「麦」より

 先生の「あんれぇ、くせえぞー」の一言ですっかり気持ちが「島ひきおにとケンムン」に傾いていく子どもたちの様子がなんとも微笑ましい。実はこの時点で担任は「島ひきおにとケンムン」の指導要領を設計済みだ。しかし、すでにお伝えしたように先生がその内容を強制したり不自然に誘導することはないが(実際に先生の思惑と子どもたちの意思が異なり、先生がゼロから指導内容を作り直す年もあった)、このような経緯を辿って、先生の思惑と子どもたちの気持ちは一体化し、満場一致の合意形成となるのである。

このような「劇作り」の準備プロセス自体が、子どもたちにとっては貴重な機会である。つまり、自分とは違った多様な意見や感情の存在を認めつつも、最終的に1つの結論に収束させなくてはならないテーマへの適応の仕方を子どもたちに教えているのである。そのために、あらゆる機会をとらえて風の谷幼稚園では子どもたちによる議論が行われている。この周到な準備を経て合意を得た「劇作り」。この活動を通じて先生たちは何を教え、子どもたちはどのように心を成長させていくのか。この具体的な様子を次回お伝えしていこう。


※次回の更新は、4月29日(木)を予定しております。

風の谷幼稚園
園長・天野優子氏が、理想の幼児教育を実現するためにゼロから建設に乗り出す。様々な困難を乗り越え、1998年に神奈川県川崎市麻生区に開園。「人間が人間らしく、誇りを持って生きていく」ための教育を実践している。

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