元ADクミさんの人生の岐路
彼女には二つの選択肢があり迷っていた。一つは8時間労働して休日は趣味を楽しむという“普通のOLの仕事”。もう一つは知り合いから誘われている中国の新興TV制作会社で番組制作をするというオファー。この中国企業は中国大手ネット業界の風雲児がスポンサーについており「製作費は気にせず面白い番組を作れ」という方針。
彼女から相談を受けたので私は「絶対に北京に行くべき」と断言。そして「若いから中国語なんて実戦ですぐにしゃべれるようになるよ」「北京でダメだったら東京で普通のOLになればいいじゃない」と彼女の背中をどんと押した次第。
世界放浪中のベテランTVディレクターGさん
2016年7月 北インドのマナリーの日本人宿で40代半ばのGさんに出会った。Gさんは中背のがっちりした体格で見るからに精力的な印象だ。彼は大学卒業後TV制作の世界に入りバラエティー番組一筋でADから叩き上げ、ディレクター、プロデューサーになった。タイトルを聞けばだれでも知っている有名人気番組を何本も企画段階から作り上げてきたプロである。40代初めで独立して自分の事務所を立ち上げフリーのPD(プロデューサー兼ディレクター)として番組作成に関わってきた業界内では有名人だ。
そんな経歴のGさんは一身上の出来事もあり一度TVの世界から自分を遠ざけて自分自身をリセット&充電しようと2年間の予定でオジサン一人旅の世界放浪に出てきた。
バラエティーの鬼、仕事師のGさん
Gさんの仕事ぶりはADのクミさん以上の超人的慢性的長時間労働だ。気が付いたら今月は一回しか自宅マンションに戻っていないとか、仕事の合間に気分転換にコンビニに買い物に行ったらコンビニのテーブルで寝てしまったとか。
視聴者からの投稿をネタにするバラエティー番組では応募投稿を四人のアシスタントを使って厳選してゆくが毎週数十万通の投稿に目を通して採否を分類して最終候補を絞るまでに三日徹夜作業。それから投稿のネタをストーリーにしてビデオ作成し、会議で番組構成を造りこみ、司会者・タレントを交えて打合せしてスタジオ収録。収録後徹夜で編集して放映日という流れを毎週繰り返す。従い視聴者投稿番組は一週間不眠不休の超人的労働で成り立っているという。
この過酷な日程の中、どこで笑いを取るか、どこで感激させるか、どこで泣かせるかを計算して緻密に演出プランを練り上げて、万全の準備を経て収録現場を指揮する。バラエティーの演出は何百万人という多様な視聴者の感情を操る指揮者であると自負している。