WEDGE REPORT

2017年3月10日

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風樹茂 (かざき・しげる)

作家、国際コンサルタント

作家、国際コンサルタント(kazakishigeru@gmail.com)。1956年、北海道生まれ。東京外国語大学スペイン語学科卒業。メキシコ留学後、中南米の専門商社を経て、南米アマゾンの奥地でODAプロジェクトの鉄道建設にかかわる。その後は、シンクタンク、研究所勤務などで、首相向けの政策提言、ODA援助、海外投資、NGOプロジェクトに従事。イスラム開発銀行のコンサルタントも経験し、30数カ国を踏査。石油関連事業でカタール、ベネズエラに駐在。

犯罪も暴力も取り締まるな!

 地方のマスコミの重鎮を再び取材した。テレビやラジオのレポーターとして活躍してきたサンチャゴ(仮名62歳)と、地方紙を25年以上渡り歩いて、最後は編集局長となっていたアルベルト(仮名73歳)である(『民主政権下、こうしてメディアは殺される』参照)。

マルガリータ島 カリブの島は表面、美しく楽しいが

ーー以前、犯罪の状況はどうでした? 私が1988年にベネズエラをはじめて訪れたときは、南米一治安がよかったし、優雅な国でしたが。今は紙面から血が滴り落ちてきますね。

「20年前は犯罪などまったくなくて、社会面の記事を埋めるのにこまったもんだ。やらせさえしたことがある。カラスがたくさんいて危ないとか、溺死体の写真を使い回しにするとか」(アルベルト)

ーーいつから、そしてなぜこれほど犯罪が増えたのですか?

「もちろん、チャべスからだ。治安悪化は国が犯罪を増加するように仕向けているからだ。政府の計画だよ。政治に目を向けないようにさせる」(アルベルト)

ーーでも、以前は治安を改善しろという住民のデモをよく見ましたが

「チャベスが大統領に選ばれてまもなくだけど、記者会見か演説だったと思う。全国民に向かってこういったんだ。『もし、父親が食糧を子供に与えることができなかったとしたなら、盗むしかない』。それが暴力、盗難、殺害への道を開いたんだ。どれだけ人々の道徳を落としたか」(サンチャゴ)

「様々な暴力団や盗難団は政府の支援を受けている。その証拠もある。あるとき、乗っていた公共のバスが盗難襲撃された。その強盗団の多くは、与党関係者だった。チャべス派の政党の身分証明書を示して、『おれらはチャベスに守られている』といって盗んでいったんだ」(アルベルト)

ーーそんな政府は人類史上ないのでは?

「一つ付け加えると、私の友人がチャベスの顧問の一人だった。キューバに定期的に訪問しているが、ある会議でチャべスがカストロにお伺いを立てたんだ。『犯罪はどう取り締まったらいいですかね。助言がほしい』。カストロはこう答えたんだ。『犯罪も暴力も取り締まるな! 彼らは必ず将来君にとって役立つ存在になる』。

 会議が終わったあとで、顧問の友人はチャベスに『カストロの犯罪に関する発言は決していいものとは思えませんが』と言ったが、チャベスは無言だった。まもなくその友人は更迭された。カストロの時代遅れの政策を踏襲したのがチャベスなんだ」(サンチャゴ)

「もうひとつ、カストロからの受け売りだけど、ともかく彼はチャベスの先生だったからね。いくつかのカストロの政策パッケージの中には、こんな経済に関するものもあった。『余分の金は燃やせ! そして国民には最低限必要なものを配給するんだ』」(サンチャゴ)

ーーどういう意味ですか?

「金があれば資本主義が始まる。それで暴力に火がついたんだよ。国営化されて、工場などの職場が次々に閉まる。職がない。なければ盗む。殺しも許されているんだから」(サンチャゴ)

「あと、ベネズエラには国民の中に政府によりかかるだけの存在がかなりいるってことだ。アメリカや日本ならば、自分の人生は自分で決めて構築していく。でも、ここでは政府の言う通りにして、そして恵んでもらう、そういう社会層はいつも政府側につく。政府は力のある父親だ、食べ物をあげる、道路がでこぼこだ、政府がやってくれる。家もあげる。もし政府がくれないときは盗む、殺す、それがチャベス主義の骨幹だ」(アルベルト)

ーー犯罪を増やすことで政府にはどんな利益があるんですか?

「知っての通り、刑務所大臣(※)があるのは世界でも多分ベネズエラだけだろう。刑務所の囚人プランたちとたとえば、コカインの利益分配の調整をしているんじゃないか。選挙費用も吸い上げられる。私腹も肥やせる。あとは騒乱のときに彼らを使って反対派弾圧にも使える」(サンチャゴ)

※刑務所大臣は大統領直結の職務で2011年に設立され、それ以来、弁護士のイリス・バレーラがその職にある。表向きの役割は、刑務所内の生活環境の改善、リクレーション設備の改善、囚人の社会教育などである。

マルガリータ島 観光客は島の日常はもちろん知らない

 ベネズエラでは刑務所内の囚人の一部はプランと呼ばれ、地域を支配し、警察にその身を守られている。たとえば、これはNHKも取材したようだが、観光地であるマルガリータ島には、プランの一人、コネッホが支配するサンアントニオ刑務所があった。4つ星ホテルのような豪華さで、シェフがいて、家族のためのプール、ディスコティック、ビリヤード場などもあり、たびたびパーティが開かれていた。囚人たちはナイフ、拳銃、自動小銃などを携帯している。

 その後、支配者のコネッホは外出時に銃弾の雨あられとなって殺害された。政府にとって邪魔な存在になったのだろう。葬式時には戒厳令が敷かれた。

 コネッホの元には刑務所大臣が何度か訪れていて、二人の親しすぎる様子が批判されてきた。日本人には理解しがたい世界なので、同刑務所の全盛期と、コネッホの死を刑務所で弔う様子を下記の動画でご覧いただきたい。

「刑務所内の全盛期」

「コネッホの死を刑務所で弔う様子」

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