WEDGE REPORT

2017年3月10日

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風樹茂 (かざき・しげる)

作家、国際コンサルタント

作家、国際コンサルタント(kazakishigeru@gmail.com)。1956年、北海道生まれ。東京外国語大学スペイン語学科卒業。メキシコ留学後、中南米の専門商社を経て、南米アマゾンの奥地でODAプロジェクトの鉄道建設にかかわる。その後は、シンクタンク、研究所勤務などで、首相向けの政策提言、ODA援助、海外投資、NGOプロジェクトに従事。イスラム開発銀行のコンサルタントも経験し、30数カ国を踏査。石油関連事業でカタール、ベネズエラに駐在。

ーーでも、キューバにとってはどんな利益があるんですか?

「ベネズエラが犯罪まみれになれば、観光業は死に絶える。外国人はキューバに行くことになる。また、反米政権への支援などはベネズエラに肩代わりさせる」(サンチャゴ)

 かつて左翼系のクリスティーナ・デ・キルチネルがアルゼンチン大統領だったころ、ベネズエラ・アルゼンチン・イランは関係が深かった。チャべスを介して、アルゼンチンの核技術(原子力発電を持つ)をイランに移転しようという計画があったと筆者は睨んでいる。イランもアルゼンチンも重水炉である。CIAやFBIも探りを入れていて、ベネズエラの動きをすべて盗聴していた。2007年に米国籍も持つベネズエラ人がブエノスアイレス入国時に逮捕され、アメリカに収監された。彼の持つスーツケースには無申告の80万ドルが入っていた(アルゼンチンの大統領選挙の援助金といわれている)。

ーーイラン、ヒズボラ、コロンビア革命軍などですね

「チャべスはアラブ系の人間を重用した。内務大臣だったタレク・エル・アイサミはその代表格だ。スペイン語も分からないアラブ系の人間にベネズエラの外交官パスポートを与えて、中東やアメリカで暗躍させていた」(アルベルト)

 シリア・レバノン系のタレク・エル・アイサミは、内務大臣(2007~12)だった4年ほどの間にベネズエラの殺人率を45.1(10万人当たりの殺人による死亡者数)に引き上げた。また、民間の複数のコカインカルテルを排除し、直営化している。その後、エル・アイサミはアラグア州の知事(2012~16)として犯罪を深化させ、州の殺人率を142にまで高めた。さらに、スパや動物園まである極楽刑務所を作り、刑務所の中からプランが戒厳令を出せるまでにした。プランは警察に手下が殺害されたことに憤慨し、商店主がきちんとみかじめ料を支払うように求めるコミュニケを出す。それらの功績もあり、今年から副大統領となっている。

マルガリータ島 商店街にて

 さっそく、アメリカはコカイン売買の犯罪者として、彼のマイアミにある膨大な資産を凍結している(全財産は30億ドルを超えるといわれている)。CNN(スペイン語版)はパスポートの不正発給を暴露し、それを報じたせいで、ベネズエラ国内での放送が禁止されてしまった。

「チャべスを早めに排除できなかったことが、こんな国家にしてしまったんだ」(サンチャゴ、アルベルト)

 ベネズエラ社会の変化と、様々な犯罪や腐敗を身近に見てきた筆者には、彼らの言葉は概ね納得いくものだった。けれども、まだ釈然としないことがある。チャべスの犯罪を奨励する言葉が「いつどこで、どう言われたのか?」 ベネズエラの知人何人かに聞くと、「確かそういうこともあったような」とうら覚えの者もいたし、「それはずっと前の演説だよ、あれは驚いた」とはっきりと覚えているものもいた。

 本腰を入れて調べてみると、チャべスの死の内幕を描いた本『とてつもない嘘』(El gran engaño)の中に、大統領は陸軍学校にて招待者のフィデル・カストロ同席の上、「空腹ならば盗む権利がある」といったとある。

 その後、ネットで調べてみると、該当する映像が出てきた。1999年2月の演説である。チャべスは、顔を強張ばらせているように見える無言の将軍、政府高官らを背後に従い、夥しい支持者にむかって思い入れたっぷりに絶叫していた。

「多くの犯罪者が刑務所の中にいる。その中で刺されたり、生きたまま燃やされたりしている。彼らは子供が腹減っているからパンを盗むしかなかったんだ。私も同じだ。神様には悪いが、もし私の娘が空腹で死にそうなら、私だって真夜中に街に出て何かをやる。君ら将軍、財務大臣、司法長官はどうする、きっと同じようにするだろう」

 今、ベネズエラは多くの国民が飢えている。国家元首の言葉は重い。

  
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