先生は生徒に答えた。
「犯罪も暴力も取り締まるな! 彼らは将来必ず君の役に立つ存在になる」
「余分の金は燃やせ! 国民には最低限必要なものを配給するんだ」
先生はフィデル・カストロ、生徒はウーゴ・チャべスである。そしてベネズエラは、刑務所の囚人が戒厳令を出す唯一無二の犯罪国家に成長した。
焼結を極める猟奇犯罪
2014年~16年にかけては、銀行強盗、商店の略奪は日常茶飯事となった。学校、大学、映画館、病院、海辺、バス、タクシーの中、あらゆる場所で人々は盗み盗まれ、殺し殺された。その頃私が住んでいたのは、熱海を思わせる景勝地だったが、残念なことに犯罪に汚されてしまった。
家の前は優雅な海水浴場だった。ある日、海水浴客にパラソルを貸し出している顔見知りの中年の男の7歳の子供が4人組に誘拐された。数日の捜索のあと、森林で遺体が発見された。その後、容疑者二人(30歳と26歳)が見つかり、彼らは拘置所内で仕返しされた。まずは指を切断され、その指を無理やり飲みこまされた。その後、胴体をばらばらに切り刻まれた動画がユーチューブに一時掲載された。
周囲では以下のような猟奇犯罪や悲惨な事件が相次いだ。
ーーかつての筆者の通勤路で、夜間に、元ミスベネズエラの女性とその恋人が乗るトヨタカローラがエンストしているうちに、犯罪集団に銃撃され殺された。犯人は15歳、17歳、22歳、26歳、32歳、36歳のからなる犯罪組織「血塗れカンブール団」。
ーーエジプト人一行が石油関連の仕事で出張してきたが、空港で税官吏に持ち金を正直に申告した。税官吏は犯罪組織に電話し、男の一人は空港を出た瞬間に銃殺され、金を奪われた。他のエジプト人たちは空港の外に出ずに、帰国の道を選んだ。
ーー鉱山労働者間で抗争があり、28人が虐殺され、何人かは豚のえさになった。
ーースーパーマーケットで長蛇の列に並んでいた、妊娠中の女性と警官が口論となり、女性は撃たれ死亡した。その後、警官は私刑され絶命した。
ーーある組織の不正を知り過ぎたのか、知人女性とその夫は、エストニアへ移民を決意し、出国の1週間前に、二人とも殺害され土中に埋められた。
知人が拳銃を突きつけられ、携帯電話や高級腕時計を盗まれるなどの軽犯罪は日常茶飯事だった。他にも、
ーー懇意にしていたタクシー運転手が車を盗難され、その後携帯に強盗から電話があり、買い戻すように脅された。
ーー日没後、老舗レストランに向かったところ、道路の中央分離帯にレストランのボーイにふんした男がいた。横を通ると、ナイフを突き出してきたので、「随分、コスプレがうまいじゃないか!」と哄笑してさっさと通り過ぎた(筆者の経験)。
ーートヨタの工場があるクマナ市は、商店街全体が略奪にあい、軍隊が出動した。日本人駐在員は帰国した。
ーーカラカスのダウンタウンの広場で、足が不自由で台車にのって動いている初老の男を久しぶりに見かけた。彼は港町から出張してきたインフォーマント(情報屋)。駐車場で高級車に乗る金持ちを見つけ、犯罪組織に携帯電話で知らせるのを食いぶちにしている。
ーー幼い子がいる知り合いの会計士も、いそいそと商店略奪に参加するようになった。